【もちまる】農薬を使わずに、どう守る?自然栽培の害虫防除を学んだ日【レポート14】

レポート

この記事の要約

本記事は、自然栽培セミナー第14回の内容をもとに、
農薬を使わずに害虫とどう向き合うのかというテーマについて学んだことをまとめたレポートです。

今回のセミナーでは、
「奇跡のリンゴ」の事例を軸にしながら、
自然栽培における害虫防除の考え方が整理されました。

ポイントとなっていたのは、次の点です。

  • 自然栽培では、害虫をゼロにすることは目標にしない
  • 無施肥や下草管理による耕種的防除が防除の土台になる
  • 天敵の働きを活かす生物的防除が、長期的な抑制力になる
  • それでも対応できない場合に、物理的防除を補助的に用いる
  • 害虫と天敵の関係は、時間をかけて低い水準で安定していく
  • 防除の難易度は、圃場だけでなく周囲の環境や場所選びにも左右される

自然栽培の害虫防除は、
資材で抑え込む技術ではなく、
生物多様性と循環が働く環境を整えることが重要である、
という点が印象に残る内容でした。

このレポートは、
自然栽培セミナー全15回を「もちまる視点」で追いかける連載企画の第12回です。

▼ この連載をまとめて読む
→ もちまる自然栽培セミナー・全話まとめガイドはこちら
https://sanseitohow.com/natural-farming-series-2/

はじめに

本記事は、自然栽培セミナー第14回の内容をもとに、
「奇跡のリンゴ」に見る害虫防除という視点からまとめたレポートです。

これまでのセミナーでは、
無肥料で作物を育てるための土壌環境や、
窒素循環・微生物の働きといった、
作物の内側を支える仕組みについて学んできました。

第13回までで整理してきたのは、主に次のような点です。

  • なぜ無肥料でも作物が育つのか
  • その裏側で、土壌や微生物に何が起きているのか
  • 自然栽培は「放置」ではなく、環境を整える技術であること

無肥料については、かなり具体的な理解が積み重なってきた一方で、
自然栽培を考えるときに、どうしても残る疑問があります。

無農薬で、本当に害虫は防げるのか。

病気や虫が出たらどうするのか。
無肥料の理屈が分かっても、
害虫防除のイメージが持てずに立ち止まる人は少なくないように感じます。

今回のセミナーでは、その害虫防除について、
著書『奇跡のリンゴ』で知られるリンゴ栽培の事例を軸に、
自然栽培ならではの考え方が整理されていきました。

強調されていたのは、

  • 害虫を「ゼロにする」発想ではないこと
  • 害虫と天敵の関係をどう成り立たせるか、という視点

です。

本記事では、

  • 慣行栽培・有機栽培・自然栽培の防除の違い
  • なぜ自然栽培では生物多様性が重要になるのか
  • 無農薬でも害虫被害が抑えられる理由

といった点を、セミナー内容に沿って整理していきます。

「無肥料で育てる」という理解の次に来る、
「無農薬で守る」というテーマ
これまで学んできた循環の考え方が、
害虫防除の話とどのようにつながっていくのか。

その流れを意識しながら、読み進めていただければと思います。

      1. この記事の要約
      2. はじめに
  1. 「奇跡のリンゴ」に見る無肥料・無農薬栽培の考え方
    1. 無農薬栽培では成り立たなかったリンゴ栽培
    2. 資材で抑える発想の限界
    3. 「守る」発想そのものを切り替える
  2. 栽培方法による病害虫防除の違い(慣行・有機・自然)
    1. 慣行栽培の病害虫防除
    2. 有機栽培の病害虫防除
    3. 自然栽培の病害虫防除
    4. 三つの栽培方法に共通する違い
  3. 自然栽培における三つの防除(耕種・生物・物理)
    1. 耕種的防除という考え方
    2. 生物的防除としての天敵
    3. 物理的防除は最後の手段
    4. 三つの防除の関係性
  4. リンゴの害虫と天敵の関係を具体例で見る
    1. リンゴの害虫は大きく二つに分けられる
    2. 無施肥と相性のよい害虫・そうでない害虫
    3. 害虫ごとに存在する天敵
    4. 天敵が機能するための前提条件
    5. 天敵防除が成立する圃場としない圃場
  5. 木村リンゴ園の事例から見える生物多様性の力
    1. 見た目は「きれい」ではないリンゴ園
    2. 生物の「量」と「種類」の違い
    3. 寄生蜂が機能している圃場
    4. 有機栽培との決定的な違い
    5. 生物多様性が防除力になる
  6. 天敵防除が成立するまでの時間と難しさ
    1. 天敵防除には必ずタイムラグがある
    2. 増減を繰り返しながら安定していく仕組み
    3. 新しい害虫が持ち込まれるリスク
    4. リンゴ園では環境づくりに時間がかかる
    5. 個人の努力だけでは限界がある
  7. 広域で考える害虫防除と場所選びの重要性
    1. 害虫は圃場の外からやってくる
    2. 発生源を意識した防除の考え方
    3. 周囲の環境が難易度を決める
    4. 場所選びも防除の一部になる
    5. 自然栽培の害虫防除が成立する条件
  8. もちまるの感じたこと(個人的感想として)

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「奇跡のリンゴ」に見る無肥料・無農薬栽培の考え方

今回のセミナーでは、
害虫防除の話に入る前提として、
まず「奇跡のリンゴ」で知られるリンゴ栽培の事例が紹介されました。

無肥料・無農薬でリンゴを作る。
この言葉だけを見ると、
特別な成功談や、例外的な出来事のように感じてしまいます。

しかし、セミナーで語られていたのは、
成功そのものよりも、
リンゴという作物で無農薬栽培に取り組んだ結果、何が起きたのか
という現実でした。

無農薬栽培では成り立たなかったリンゴ栽培

リンゴは、一般に
無農薬での栽培は不可能だとされてきた果樹です。

実際に、
有機栽培として無農薬栽培に取り組んだものの、
病害虫の被害によって収穫が得られない状態が長く続きました。

ここで行われていたのは、

  • 農薬を使わない
  • 化学肥料も使わない
  • その代わりに、堆肥や天然由来の資材を用いる

という、一般的に「有機栽培」と呼ばれる形での無農薬栽培です。

しかしリンゴでは、
この方法でも病害虫被害を防ぐことができず、
収穫が得られない状態が続くという結果になりました。

これは、
やり方が未熟だったから、
時間が足りなかったから、
という問題ではありません。

果樹園の環境が、
無農薬栽培に耐えられる状態になっていなかったことが、
そのまま結果として現れていた、
と整理されていました。

資材で抑える発想の限界

無農薬で栽培を続ける中では、
焼酎やニンニク、小麦など、
さまざまな天然由来の資材も試されてきました。

しかし、

  • 農薬を合成農薬から天然由来資材に置き換える
  • 何かを散布して病害虫を抑えようとする

という発想の延長では、
リンゴの無農薬栽培は成立しなかった。

ここで見えてきたのは、
資材の種類の問題ではなく、考え方そのものの限界でした。

慣行栽培であっても、
有機栽培であっても、
「外から何かを入れて病害虫を抑える」という構造は共通しています。

リンゴという作物では、
この発想のままでは無農薬栽培は成り立たない、
という現実がはっきりした、という説明でした。

「守る」発想そのものを切り替える

そこで切り替えられたのが、
病害虫を資材で抑え込むという考え方そのものです。

重視されるようになったのは、

  • 無施肥にする
  • 下草を生やし、刈り取らない
  • 果樹園全体を、生物が住める環境として捉える

といった、
果樹園の状態そのものを変えていく方向でした。

その結果、
葉には病斑が出て、
虫食いの跡も残る。

見た目としては、
慣行栽培とは大きく異なる果樹園になります。

それでも、

  • 木は枯れず
  • 毎年リンゴが実り
  • 栽培としては破綻しない

という状態が、少しずつ続くようになっていった。

ここで目指されていたのは、
病害虫をなくすことではありません。

病害虫が発生することを前提に、
それでも全体として崩れない環境をつくること。
その考え方が、
このあとの害虫防除の話につながっていきます。

栽培方法による病害虫防除の違い(慣行・有機・自然)

前章では、
リンゴ栽培の事例を通して、
「病害虫をどう扱うか」という発想そのものが、
栽培の成否に大きく関わっていることが示されていました。

ここでは、
慣行栽培・有機栽培・自然栽培という三つの栽培方法を並べて、
病害虫防除がどのような考え方で組み立てられているのかを整理していきます。

慣行栽培の病害虫防除

慣行栽培では、
病害虫防除の中心は農薬による防除です。

リンゴ栽培の場合、

  • 剪定、施肥、摘花・摘果といった作業に加えて
  • 生育期間中に何度も農薬を散布する

という管理が一般的に行われています。

農薬によって病害虫を抑えるため、
果樹園の葉や果実は非常にきれいな状態になります。

病斑や虫食いがほとんど見られない果樹園を維持できる点は、
慣行栽培の大きな特徴です。

一方で、

  • 害虫とともに天敵も殺してしまう
  • 園地内の生物の多様性が低下する

という側面もあります。

そのため、
農薬による防除をやめると、病害虫が一気に顕在化する
という構造になっています。

有機栽培の病害虫防除

有機栽培では、
合成農薬は使わず、
有機栽培で認められた農薬や天然物由来の資材を用いて防除を行います。

農薬の種類は変わりますが、

  • 病害虫を資材で抑える
  • 必要に応じて散布する

という基本的な考え方は、
慣行栽培と大きくは変わりません。

ただし、有機栽培で使える資材は、

  • 効果が限定的
  • 残効が短い

といった特徴があり、
病害虫防除は非常に難しくなります。

特にリンゴのような果樹では、
有機栽培による無農薬栽培が成立しにくい理由が、
この点に集約されていると説明されていました。

自然栽培の病害虫防除

自然栽培では、
慣行栽培や有機栽培とは、
病害虫防除の発想そのものが異なります。

自然栽培で重視されているのは、

  • 病害虫を「資材で抑える」ことではない
  • 園地全体の状態を整えること

です。

無施肥にすることで、

  • 作物中の窒素濃度が下がる
  • 病原菌が増えにくくなる
  • 害虫が寄りつきにくくなる

といった変化が起こります。

また、下草を刈り取らずに残すことで、

  • 昆虫
  • クモ類
  • 微生物

など、さまざまな生物が住める環境が維持されます。

その結果、
害虫が発生しても、
それを抑える天敵が園地内に存在する状態がつくられていきます。

ただし、
無施肥・無農薬にすれば、
病害虫被害がゼロになるわけではありません。

自然栽培では、

  • 病害虫は発生する
  • しかし、大発生しない
  • 栽培として破綻しない

という状態を目指します。

三つの栽培方法に共通する違い

ここまでを整理すると、
三つの栽培方法の違いは、

  • 何を使うか
  • どの資材を選ぶか

ではなく、

病害虫をどこで、どう抑えようとしているか

という点にあります。

  • 慣行栽培:農薬によって直接抑える
  • 有機栽培:認められた資材で抑える
  • 自然栽培:環境を整え、関係性の中で抑える

この違いが、
害虫防除の難易度や、
長期的な安定性に大きく影響していると感じました。

自然栽培では、
環境づくりだけで対応しきれない場面もあります。

そのため、
病害虫防除は一つの方法に頼るのではなく、
複数の防除を組み合わせて考える必要がある、
という話へと進んでいきました。

次章では、
自然栽培で実際に用いられている
三つの病害虫防除について、
それぞれの役割と位置づけを整理していきます。

自然栽培における三つの防除(耕種・生物・物理)

自然栽培の病害虫防除は、
「農薬を使わない」という一点だけで語られがちですが、
セミナーでは、いくつかの段階に分けて整理されていました。

自然栽培では、
病害虫防除を三つの防除として捉え、
それぞれに明確な役割と優先順位があると説明されていました。

耕種的防除という考え方

まず基本になるのが、
耕種的防除です。

耕種的防除とは、
圃場の条件そのものを整えることで、
病害虫が発生しにくい状態をつくる考え方です。

自然栽培で特に重視されていたのは、

  • 無施肥にすること
  • 下草を刈り取らず、生やすこと

この二点でした。

無施肥にすることで、

  • 作物中の窒素濃度が下がる
  • 窒素を求める害虫が集まりにくくなる
  • 病原菌が増えにくい条件になる

といった変化が起こります。

また、下草を残すことで、

  • 昆虫
  • クモ類
  • 微生物

など、多様な生物が圃場内に存在できるようになります。

この段階で、
病害虫被害はかなり抑えられると説明されていました。
ただし、被害がゼロになるわけではありません。

生物的防除としての天敵

耕種的防除によって整えられた環境の中で、
次に重要になるのが
生物的防除です。

生物的防除とは、
害虫を捕食したり、寄生したりする
天敵の働きによって害虫を抑える考え方です。

自然栽培では、

  • 虫には虫
  • 微生物には微生物

という関係が成り立つことを前提に、
天敵が活動できる環境を維持することが重視されます。

下草があり、
農薬が使われない圃場では、

  • 天敵の住処が確保される
  • 害虫が発生すると、それを餌として天敵が増える

という関係が生まれます。

この関係は、
害虫を一時的に減らすというよりも、

  • 害虫が増える
  • それに応じて天敵が増える
  • 害虫が減る
  • 餌が減ることで天敵も減る

という増減を繰り返しながら、
害虫・天敵の双方が比較的低い水準で安定していく
という仕組みとして説明されていました。

このような状態になると、
害虫が一気に大発生することは起こりにくくなり、
長期的に見て栽培が成り立つ防除が可能になります。

ただし、
天敵による防除には即効性はありません。

害虫が先に発生し、
その後に天敵が増えるという
時間差(タイムラグ)が必ず存在します。

この点を理解せずに、
害虫が出た段階ですぐに排除してしまうと、
天敵が増えるきっかけそのものを失ってしまう、
という説明も印象に残りました。

物理的防除は最後の手段

耕種的防除と生物的防除を行っても、
それだけでは対応しきれない害虫も存在します。

そこで位置づけられていたのが、
物理的防除です。

物理的防除には、

  • 防虫ネット
  • 果実袋
  • 捕殺
  • 気門封鎖材

といった方法があります。

これらは、

  • 環境を整える
  • 天敵の働きを活かす

という自然栽培の基本を前提としたうえで、
どうしても必要な場合に併用する対策とされていました。

重要なのは、
物理的防除が主役ではないという点です。

耕種的防除や生物的防除が不十分なまま、
物理的防除だけに頼ると、

  • 作業量が増える
  • 自然栽培としての持続性が下がる

という問題が生じやすくなります。

三つの防除の関係性

三つの防除は、
それぞれが独立して存在しているわけではありません。

  • 耕種的防除が土台をつくり
  • 生物的防除が日常的な抑制力となり
  • 物理的防除が補助的に使われる

という関係で整理されていました。

この順番が逆になると、
自然栽培での害虫防除は非常に難しくなります。

ここまでで、
自然栽培における害虫防除の全体像は、
かなり具体的に見えてきました。

次章では、
この考え方を踏まえたうえで、
リンゴに実際に発生する害虫と、その天敵
具体例として見ていきます。

害虫にはどのような種類があり、
それぞれにどんな天敵がいるのか。
具体的な関係を見ることで、
生物的防除の仕組みが、
より立体的に理解できるようになるはずです。

リンゴの害虫と天敵の関係を具体例で見る

ここまでで、
自然栽培における病害虫防除の考え方として、
耕種的防除・生物的防除・物理的防除という三つの枠組みを整理してきました。

この章では、
その中でも特に生物的防除に焦点を当て、
リンゴに実際に発生する害虫と、
それを抑える天敵の関係を具体例で見ていきます。

リンゴの害虫は大きく二つに分けられる

セミナーでは、
リンゴの害虫は大きく二つのタイプに分けて整理されていました。

一つは、
植物の栄養を吸う害虫です。

  • アブラムシ
  • カイガラムシ
  • カメムシ類

これらは、
葉や果実、枝などから養分を吸い取ることで被害を与えます。

もう一つは、
植物そのものを食べる害虫です。

  • 葉を食べる蛾の幼虫
  • 果実を食害するシンクイガ
  • 幹を食害するカミキリムシ

この二つのタイプは、
自然栽培との関係性も異なります。

無施肥と相性のよい害虫・そうでない害虫

植食昆虫の多くは、
植物体内の窒素を求めて集まる性質があります。

そのため、無施肥にすると、

  • 作物中の窒素濃度が下がる
  • 葉や果実の栄養価が下がる
  • 植食昆虫の被害が出にくくなる

という傾向が見られます。

一方で、
カメムシなどの吸汁昆虫は、
光合成によって作られた糖などを吸うため、
無施肥の効果があまり大きくありません。

このため、
自然栽培では、

  • 植食昆虫の被害は減りやすい
  • 吸汁昆虫の被害は残りやすい

という特徴があると説明されていました。

害虫ごとに存在する天敵

重要なのは、
ほとんどの害虫には、
それぞれ対応する天敵が存在するという点です。

例えば、

  • アブラムシには、テントウムシやヒラタアブ
  • カイガラムシには、寄生蜂
  • 蛾の幼虫には、クモやサシガメ、寄生蜂

といった関係があります。

特に印象的だったのは、
寄生蜂の存在です。

寄生蜂は、
害虫の体内や卵に産卵し、
内部から幼虫を食べて成長します。

その結果、
害虫は繁殖できず、
やがて死に至ります。

セミナーでは、
寄生蜂は多くの害虫に対応する
非常に効果の高い天敵だと説明されていました。

天敵が機能するための前提条件

ただし、
天敵がいれば自動的に害虫が抑えられるわけではありません。

天敵が機能するためには、

  • 農薬が使われていないこと
  • 下草や周辺環境があり、住処が確保されていること
  • 害虫が完全に排除されていないこと

といった条件が必要になります。

害虫が発生しなければ、
天敵は増えることができません。

逆に、
害虫が発生しても、
天敵が生き残れる環境がなければ、
防除は成立しません。

ここでも、
「害虫をゼロにしない」という考え方が、
生物的防除の前提になっていることが見えてきます。

天敵防除が成立する圃場としない圃場

セミナーでは、
同じ無農薬でも、

  • 天敵による防除がうまく回る圃場
  • まったく機能しない圃場

があることも示されていました。

その違いを分ける要因として挙げられていたのが、
生物多様性の差です。

天敵の種類が少なく、
数も少ない圃場では、
害虫を抑える力が十分に育ちません。

一方で、
多様な生物が存在する圃場では、

  • さまざまな天敵が同時に働く
  • 特定の害虫だけが増えにくい

という状態がつくられていきます。

この違いは、
次章で扱うリンゴ園の事例を見ると、
よりはっきりと理解できると感じました。

次章では、
実際に無肥料・無農薬でリンゴ栽培が行われている
木村リンゴ園の事例を通して、
生物多様性がどのように害虫防除につながっているのかを見ていきます。

数値や圃場の様子を交えながら、
生物的防除が「理屈」ではなく
「現場で起きている現象」として理解できる内容でした。

木村リンゴ園の事例から見える生物多様性の力

前章では、
リンゴの害虫と天敵の関係を具体例で見てきました。

ここでは、
その関係が実際の圃場でどのように成立しているのかを、
無肥料・無農薬でリンゴ栽培を行っている
木村リンゴ園の事例を通して整理していきます。

見た目は「きれい」ではないリンゴ園

木村リンゴ園のリンゴは、
慣行栽培のリンゴと同じように実りますが、
園地の様子は大きく異なります。

  • 葉には病斑が見られる
  • 虫食いの跡も残っている

一見すると、
病害虫が防げていないようにも見えます。

しかし、
重要なのは「被害があるかどうか」ではなく、
栽培として成り立っているかどうかでした。

病害虫が発生しても、
それによって木が弱り切ったり、
収穫が不可能になる状態にはなっていない。

この「破綻しない状態」が、
どのように支えられているのかが、
セミナーの中で詳しく説明されていました。

生物の「量」と「種類」の違い

木村リンゴ園の特徴として、
まず示されていたのが、
圃場内に存在する生物の量と種類の多さです。

土壌動物の数を比較すると、

  • 慣行栽培のリンゴ園
  • 木村リンゴ園

では、
桁違いの差があることが示されていました。

単に数が多いだけでなく、
生息している生物の種類が非常に多様である点も、
重要なポイントとして挙げられていました。

この多様性があることで、

  • 特定の害虫だけが増え続けることを防ぐ
  • さまざまな天敵が同時に働く

という状態が生まれていきます。

寄生蜂が機能している圃場

特に印象的だったのが、
寄生蜂の働きです。

木村リンゴ園の葉を観察すると、

  • 寄生された害虫の痕跡
  • 黒い残りかすのような姿
  • 白いカビが生えた状態

といったものが、
実際に多く見つかると説明されていました。

これは、

  • 寄生蜂が害虫を見つけ
  • 卵を産み付け
  • 幼虫が体内から害虫を食べて成長し
  • 害虫が死ぬ

という一連の過程が、
園地の中で日常的に起きていることを示しています。

寄生蜂は種類も多く、
さまざまな害虫に対応します。

そのため、
一種類の害虫が増えても、
それを抑える別の天敵がすぐに働く、
という構造が成り立っていました。

有機栽培との決定的な違い

セミナーでは、
このような天敵防除が、

  • なぜ自然栽培では成立し
  • 有機栽培では成立しにくいのか

という点についても整理されていました。

有機栽培では、
認められた農薬や資材を使用します。

代表的なものとして挙げられていたのが、
ボルドー液です。

ボルドー液は天然由来の資材ですが、
殺傷力が強く、
害虫だけでなく天敵も同時に殺してしまいます。

また、有機栽培では、

  • 下草をきれいに刈り取る
  • 園地を整然と保つ

といった管理が行われることが多く、
天敵の住処が失われやすい環境になります。

その結果、
生物多様性が育たず、
天敵による防除が機能しにくくなる。

一方、自然栽培では、

  • 農薬を使わない
  • 下草を残す

ことで、
生物多様性が維持され、
天敵の密度も高まっていきます。

生物多様性が防除力になる

この事例から見えてくるのは、
自然栽培における害虫防除の本質が、
生物多様性そのものにあるという点です。

  • 害虫がいる
  • それを餌にする天敵がいる
  • 天敵を支える環境がある

この関係が圃場の中で回り続けることで、
害虫被害は「抑え込む」ものではなく、
「大きくならない」状態として維持されていました。

ただし、
この状態は一朝一夕でできるものではありません。

生物多様性が育ち、
天敵防除が安定して機能するまでには、
どうしても時間がかかります。

次章では、
天敵防除が成立するまでに必要な時間と、
その過程で直面する難しさについて、
もう一段踏み込んで見ていきます。

天敵防除が成立するまでの時間と難しさ

前章では、
木村リンゴ園の事例を通して、
生物多様性が高い圃場では、
天敵による害虫防除が実際に機能していることを見てきました。

一方で、
自然栽培に取り組む人の多くが、
「天敵防除は難しい」「うまくいかない」と感じるのも事実です。

その理由について、
セミナーでは時間軸という視点から説明がされていました。

天敵防除には必ずタイムラグがある

天敵による防除には、
どうしても避けられない特徴があります。

それは、

  • 害虫が先に発生する
  • その害虫を餌にして、天敵が増える

という順番があるという点です。

天敵は、
害虫が存在しなければ増えることができません。

そのため、

  • 害虫が出た
  • すぐに天敵が抑えてくれる

という即効性のある防除にはなりません。

まず害虫が増え、
その後に天敵が増え、
結果として害虫が減っていく。

この時間差(タイムラグ)を理解せずにいると、
天敵防除は「効いていない」「失敗している」ように見えてしまいます。

増減を繰り返しながら安定していく仕組み

天敵防除が機能し始めると、
圃場内では次のような変化が繰り返されます。

  • 害虫が少し増える
  • それを餌に天敵が増える
  • 天敵が増えることで害虫が減る
  • 餌が減るため天敵も減る

このサイクルが、
次第に小さな振れ幅で繰り返されるようになります。

その結果、

  • 害虫も
  • 天敵も

ともに、
大発生しない低い水準で安定した状態に落ち着いていきます。

セミナーでは、
これを「長期安定防御」として説明していました。

ただし、
この状態に至るまでには、
一定の時間が必要になります。

新しい害虫が持ち込まれるリスク

天敵防除を難しくしている要因として、
もう一つ挙げられていたのが、
新しい害虫の侵入です。

近年では、

  • 温暖化
  • 物流の変化

などの影響で、
これまでいなかった害虫が、
別の地域から侵入するケースが増えています。

新しく侵入した害虫には、

  • まだ対応する天敵が少ない
  • 天敵が地域に定着していない

という問題があります。

そのため、

  • 一時的に害虫が大発生する
  • 天敵が追いつかず、被害が大きくなる

といった状況が、
数年に一度、突発的に起こることもあると説明されていました。

リンゴ園では環境づくりに時間がかかる

特にリンゴのような果樹では、
天敵防除が安定して機能するまでに、
数年単位の時間がかかることが分かっています。

慣行栽培から自然栽培に切り替えた場合でも、

  • 下草を生やす
  • 生物が戻ってくる
  • 天敵の種類と数が増える

といった変化には、
どうしても時間が必要です。

セミナーでは、
リンゴ園の場合、
害虫防除の環境が整うまでに
5〜6年程度かかることもある、
という説明がありました。

この期間を、

  • 失敗
  • 向いていない

と捉えてしまうと、
自然栽培は続きません。

むしろ、
その時間を前提として取り組む必要がある、
という話でした。

個人の努力だけでは限界がある

もう一つ、
天敵防除の難しさとして挙げられていたのが、
圃場の外からの影響です。

自分の圃場で、

  • 無施肥にする
  • 下草を生やす
  • 農薬を使わない

といった取り組みを行っていても、
周囲の環境次第では、
毎年大量の害虫が飛び込んでくることがあります。

このような場合、
圃場内で天敵が育つ前に、
害虫の流入が続いてしまい、
防除が追いつかなくなります。

ここまでの話を通して、
天敵防除が成立するかどうかは、

  • 圃場の中だけの問題ではない
  • 周囲の環境とも強く関係している

という点が見えてきました。

次章では、
この視点をさらに広げて、
広域での害虫防除
自然栽培における場所選びの重要性について整理していきます。

広域で考える害虫防除と場所選びの重要性

ここまで、
自然栽培における害虫防除について、
圃場の環境づくりや天敵の働き、
そして時間をかけて安定させていく考え方を見てきました。

これらを踏まえると、
害虫防除は圃場の中だけで完結するものではなく、
より広い範囲の環境と深く関わっていることが見えてきます。

害虫は圃場の外からやってくる

害虫防除というと、
どうしても自分の圃場内の管理に意識が向きがちです。

しかし、害虫は圃場の中で突然発生するわけではありません。
多くの場合、

  • 繁殖場所
  • 発生源

となる場所が別にあり、
そこから移動してきます。

発生源が近くにある限り、
圃場内でいくら環境を整えても、
毎年のように害虫が流入する状況は避けられません。

発生源を意識した防除の考え方

セミナーでは、
広域での害虫防除として、

  • 繁殖場所・発生源の除去
  • 産卵前、孵化前の段階での対応

という視点が重要であることが示されていました。

害虫は、

  • 近くで繁殖し
  • 数を増やし
  • 別の場所へ移動して被害を広げる

という流れを繰り返します。

この循環のどこかを断たなければ、
天敵による防除だけでは追いつかなくなる場合もあります。

周囲の環境が難易度を決める

自然栽培の害虫防除は、
周囲の土地利用や管理状況の影響を強く受けます。

例えば、

  • 周囲が慣行栽培の圃場に囲まれている場合
    → 農薬の使用により、害虫の個体数が抑えられている
  • 周囲に有機栽培や放置された圃場が多い場合
    → 害虫の繁殖源になりやすい

といった違いがあります。

これは、
どちらが良い・悪いという話ではありません。

自然栽培では、
周囲の環境条件によって防除の前提が大きく変わる
という現実を示しています。

場所選びも防除の一部になる

ここまでの話を整理すると、
自然栽培では、

  • 栽培技術
  • 土壌条件

に加えて、
場所選びそのものが害虫防除の一部になることが分かります。

特に、

  • 近くに大きな発生源がないか
  • 周囲がどのように管理されているか
  • 広域で見たときの害虫の動きはどうか

といった点は、
後から個人の努力だけで覆すことが難しい要素です。

稲作で紹介されていた、
斑点カメムシとイネ科雑草の関係も、
この考え方を分かりやすく示していました。

自然栽培の害虫防除が成立する条件

ここまで見てきたように、
自然栽培の害虫防除は、

  • 無施肥によって病害虫の土台を弱め
  • 生物多様性を育て
  • 天敵による抑制が働く環境をつくり
  • さらに広域の条件とも折り合いをつける

という、複数の要素が重なって成立します。

そのため、

  • すぐに結果が出る
  • どこでも同じようにできる

という方法ではありません。

一方で、
条件が整えば、
農薬に頼らずとも害虫被害が大きくならない状態を、
長期的に維持できる可能性があることも、
今回のセミナーから見えてきました。

自然栽培における害虫防除は、
単なる技術の集まりではなく、
環境全体をどう捉え、どう整えるかという考え方そのものだと、
整理することができそうです。

もちまるの感じたこと(個人的感想として)

第14回のセミナーでは、
自然栽培における害虫防除について、
「奇跡のリンゴ」の事例を軸に、
かなり具体的な話を聞くことができました。

第13回までは、
無肥料で作物をどう育てるか、
土や微生物、循環の話が中心でしたが、
今回はその続きとして、
「では、その作物をどう守るのか」
というテーマだったように感じています。

自然栽培は無農薬栽培である以上、
害虫被害がゼロになることはありません。
その前提を改めて、
はっきりと示された回でもありました。

今回のセミナーを通して印象に残ったのは、
害虫対策が「駆除の技術」ではなく、
関係性をどうつくるかという話だった点です。

害虫がいるから天敵が現れ、
天敵が増えるから害虫が減る。
減りすぎれば天敵も減り、
また少し害虫が増える。

この繰り返しの中で、
害虫も天敵も、
極端に増えすぎない水準で安定していく。

自然栽培の害虫防除とは、
そうした食物連鎖のバランスを、
圃場の中につくり出すことなのだと理解しました。

この考え方は、
これまで学んできた自然栽培の循環の話とも、
強くつながっているように感じます。

光合成によって有機物が生まれ、
それが分解され、
窒素が固定され、
再び光合成につながっていく。

低窒素・高炭素、
pHや乾燥条件の調整など、
循環するエコシステムを整える考え方と、
害虫と天敵の関係は、
同じ構造の中にあるように思えました。

また、今回の話を聞いて、
自然栽培では場所選びが非常に重要だという印象も強くなりました。

土壌条件だけでなく、
害虫防除の観点から見ても、
周囲にどのような圃場や環境があるかで、
難易度が大きく変わります。

例えば、
周囲が慣行栽培の圃場に囲まれていれば、
農薬の使用によって害虫の数自体が抑えられているため、
結果として害虫の侵入が少なくなる場合もあります。

一方で、
有機栽培や放置された圃場が近くにあると、
そこが害虫の発生源になり、
防除が難しくなることも考えられます。

もし周囲が自然栽培で囲まれていれば、
地域全体で発生源を減らし、
自然栽培に適した環境をつくっていく、
という可能性も見えてきます。

セミナーではそこまで踏み込んだ話はありませんでしたが、
第14回を通して、
そんなことも考えるようになりました。

今回の学びをまとめると、
自然栽培の害虫防除のカギは、
やはり自然の循環がうまく回る環境を整えることにあると感じています。

害虫は必ず外からやってくる。
であれば、
それを力で排除するのではなく、
天敵が住める環境を用意し、
圃場の中でバランスを取ってもらう。

そのために、
無施肥を行い、
刈り取りを控え、
時間をかけて生物多様性を育てていく。

簡単ではありませんが、
筋の通った考え方だとも感じました。

次回のセミナーでは、
これまで学んできた内容が、
どのようにさらに整理されていくのか。
引き続き、
一つひとつ理解を深めていきたいと思います。

▶ 次回レポート
第15回「(準備中)」
次回、ご期待ください

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