【もちまる】無肥料なのに、なぜ差がつく?自然栽培土壌の「窒素循環」を学んだ日【レポート9】

レポート

この記事の要約

本記事は、自然栽培セミナー第9回の内容をもとに、
「無肥料でもなぜ高収量が可能になるのか」
その仕組みを 窒素循環と土壌微生物の働き から整理したレポートです。

同じ「無肥料」であっても、

・慣行栽培に近い収量を安定して出し続ける水田
・年々収量が下がり、低迷していく水田

が存在する理由はどこにあるのか。

本記事では、

・5年間の収量データから見える「差の固定化」
・自然栽培における窒素の供給源と循環構造
・窒素固定が「努力」ではなく「条件」で決まる理由
・C/N比によって変わる土壌の窒素環境
・有機物の分解速度と、真菌・細菌の役割分担
・水田で起きている“分解リレー”と乾燥の意味
・菌ちゃん農法を「環境設計」として読み解く視点

といったポイントを、
理屈と実例の両面から丁寧に追っていきます。

特に強調されていたのは、

自然栽培は「何も入れない農法」ではなく、
循環が回り始める環境をつくり、
その循環を大きく育てていく“技術”である

という考え方です。

無肥料でうまくいく圃場と、うまくいかない圃場の違いは、
思想や根性ではなく、

・微生物が働ける条件が整っているか
・分解と窒素固定がつながっているか
・循環が「低いまま」なのか「大きく回り始めているか」

という構造の差にありました。

自然栽培に興味はあるものの、

・なぜ失敗例が多いのか
・最初に何を整えるべきなのか
・「無肥料」に入るタイミングはいつなのか

が曖昧だった方にとって、
自然栽培の“技術的な入口”が見えてくる回 になっています。

このレポートは、
自然栽培セミナー全15回を「もちまる視点」で追いかける連載企画の第9回です。

▼ この連載をまとめて読む
→ もちまる自然栽培セミナー・全話まとめガイドはこちら
https://sanseitohow.com/natural-farming-series-2/

はじめに

本記事は、自然栽培セミナー第9回の内容を、
「自然栽培土壌の“自律的な栄養塩供給”」という視点からまとめたレポートです(今回はその第一回として「窒素」)。

第7回で「肥料を入れないのに、なぜ育つ?」という仕組みを学び、
第9回ではさらに一歩踏み込んで、

  • 長期無肥料でも高収量を維持できる水田
  • 同じ無肥料でも収量が伸びない水田

その差を生む“条件”を、窒素循環の設計として読み解いていく内容でした。

ここで扱うのは、特定の農法を持ち上げたり否定したりする話ではなく、
「どういう条件だと窒素固定が回るのか」という、かなり技術寄りの整理です。
(セミナーで紹介された事例をベースに、もちまる視点で見取り図にしていきます)

      1. この記事の要約
      2. はじめに
  1. 同じ「無肥料」でも、収量には“別世界”がある
  2. 慣行・高収量・低収量──5年推移が示す「差の固定化」
  3. 窒素はどこから来るのか──自然栽培の窒素循環
  4. 窒素固定は「やる気」ではなく「条件」で決まる
  5. C/N比という“設計図”──入れる資材で窒素環境が変わる
  6. 有機物は“何でもいい”わけではない──分解速度と窒素固定
    1. 家畜糞系堆肥
    2. セルロース系の植物繊維(稲わらなど)
    3. 木質系の有機物(おがくずなど)
  7. 水田で起きている“分解リレー”──乾燥がスイッチになる理由
    1. 乾燥した土壌で、何が起きているのか
    2. 分解の最終段階で、窒素固定が始まる
    3. 「乾燥」は、分解リレーのスイッチ
  8. 真菌と細菌──“見えない主役”が土を動かしている
    1. 土壌生物量の大半は「目に見えない存在」
    2. 真菌の役割──「分解の先頭に立つ存在」
    3. 細菌の役割──「エネルギーを使って回す存在」
    4. 真菌と細菌は「競争」ではなく「連携」
    5. 土壌環境が、微生物の比率を決めている
    6. ここまでを踏まえて見えてくること
  9. 菌ちゃん農法は“窒素固定を回す環境設計”として読める
    1. 菌ちゃん農法の本質は「菌を入れること」ではない
    2. 高畝がつくる「分解のステージ」
    3. 分解 → エネルギー → 窒素固定、という一本の流れ
    4. なぜ家庭菜園で成功しやすいのか
    5. 菌ちゃん農法は「特別な例」ではない
  10. まとめ:自然栽培は“回り始めた循環を大きくする技術”
    1. 収量の差は「偶然」ではなかった
    2. 自然栽培は「放置」では成立しない
    3. 「入れない」のは、回り始めてから
    4. 見えてきた自然栽培の核心
  11. もちまるの感じたこと(個人的感想として)
    1. 「自然栽培=何もしない」は完全に誤解だった
    2. なぜ「無肥料で失敗する人」が多いのかが見えた
    3. 「投入するか・しないか」ではなく「どこで止めるか」
    4. 「菌ちゃん農法」が腑に落ちた瞬間
    5. 自然栽培は「循環を育てる農業」

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第8回「どの種を選ぶかで、農業は変わる。自然栽培に適した品種を学んだ日」
https://sanseitohow.com/natural-farming-seeds-varieties/


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第10回「無肥料なのに、なぜ枯渇しない?自然栽培土壌の『ミネラル循環』を学んだ日」
https://sanseitohow.com/natural-farming-soil-mineral-cycle-report10/

同じ「無肥料」でも、収量には“別世界”がある

「無肥料・無農薬」と聞くと、
どうしても一括りにしたイメージを持ってしまいがちです。

しかし、セミナーの冒頭で示されたデータは、
その認識を大きく揺さぶるものでした。

同じく無肥料で管理されている水田であっても、

・慣行栽培に近い収量を安定して出している圃場
・年を追うごとに収量が落ち込み、100kg前後まで下がってしまう圃場

が、はっきりと分かれて存在しているという事実です。

つまり、

「無肥料だから収量が低い」のではない
「無肥料の“やり方”によって、結果がまったく違う」

という現実がある、ということになります。

特に印象的だったのは、
高収量の自然栽培水田では、慣行栽培と大きく変わらない約480kg前後の収量が、長期間にわたって維持されている
一方で、
低収量の自然栽培水田では、年々収量が下がり、雑草に埋もれ、穂も小さくなっていく
という、対照的な姿でした。

この差は偶然ではなく、
一時的な天候や作柄のブレでもありません。

同じ地域、同じ作物、同じ「無肥料」という条件の中で、
結果が“別世界”と言えるほど分かれていく

では、その分かれ道はどこにあるのか。

この疑問に答えるために、セミナーでは次に、
慣行水田・高収量自然栽培水田・低収量自然栽培水田の「収量推移」を長期データで比較する
というステップに進んでいきました。

「差は一時的なものなのか」
それとも
「時間とともに固定されていく構造的な差なのか」。

次章では、5年間の収量推移データをもとに、
なぜ自然栽培の水田は“伸びる圃場”と“落ち込む圃場”に分かれていくのか
その輪郭をはっきりさせていきます。

慣行・高収量・低収量──5年推移が示す「差の固定化」

セミナーでは、
慣行水田・高収量自然栽培水田・低収量自然栽培水田について、
5年間にわたる収量推移データが示されました。

その結果は、非常に明確でした。

慣行水田では、
毎年ほぼ同じ水準の収量が安定して続いています。

一方、自然栽培水田は、
「無肥料」という条件が同じであるにもかかわらず、
二つのまったく異なる軌道を描いていました。

高収量の自然栽培水田は、
多少の上下はありつつも、
慣行水田に近い収量を5年間ほぼ維持しています。

対照的に、低収量の自然栽培水田では、
年を追うごとに収量が落ち込み、
回復の兆しが見られないまま推移していました。

ここで重要なのは、

差が「縮まらない」どころか、
時間とともに固定されていく

という点です。

もし、
自然栽培が「運」や「偶然」に左右される農法であれば、
ある年は良く、ある年は悪い、
という揺れ方をするはずです。

しかし実際には、

・高収量の圃場は、高収量のまま
・低収量の圃場は、低収量のまま

という状態が続いていました。

これはつまり、
自然栽培の成否は、すでに初期段階で決まっている可能性が高い
ということを意味します。

そして、セミナーではこの「差の固定化」を説明する軸として、
ある一つの要因が繰り返し強調されていました。

それが、
水田土壌の「窒素供給力」です。

高収量水田では、
外部から肥料を与えていないにもかかわらず、
作物の生育に十分な窒素が、
毎年、安定して供給されている。

一方で低収量水田では、
無肥料という条件の中で、
その窒素供給がうまく回らず、
年々、生育が弱まっていく。

では、その窒素は、
一体どこから来ているのでしょうか。

肥料を入れていない以上、
答えは「土壌の中」にしかありません。

次章では、
自然栽培において窒素がどのように生み出され、循環しているのか
という、仕組みそのものに踏み込んでいきます。

「無肥料なのに、なぜ育つのか」
その核心となる、
自然栽培の窒素循環の話です。

窒素はどこから来るのか──自然栽培の窒素循環

作物の生育にとって、
窒素が不可欠な栄養素であることは、農業ではよく知られています。

窒素は、

アミノ酸の材料となり
アミノ酸がつながってタンパク質となり
タンパク質が酵素をつくり
酵素が光合成や成長といった、あらゆる生命反応を支える

という、生命活動の土台に位置する元素です。

そのため、

「無肥料で栽培する」

と聞くと、
多くの人がまず疑問に思うのが、

窒素が足りなくならないのか?

という点ではないでしょうか。

しかし、セミナーで繰り返し強調されていたのは、
「無肥料=無窒素」ではないという事実でした。

自然栽培の圃場でも、
窒素は確かに循環しています。

ただし、その供給源は
化学肥料や堆肥のような「外部投入」ではありません。

鍵になるのは、
土壌の中で起きている二つのプロセスです。

一つ目は、
作物残さや雑草などに含まれる窒素が、
微生物によって分解され、
再び土壌中に戻る「無機化」の流れ。

そしてもう一つが、
自然栽培の要ともいえる、

生物的窒素固定です。

土壌中には、
大気中に大量に存在する窒素ガス(N₂)を、
植物が利用できる形(アンモニア態窒素)に変換する
窒素固定細菌が存在しています。

大気中の窒素は、
量としてはほぼ無限に近く、
枯渇する心配がありません。

つまり、

窒素固定の流れをうまく回せば、
外部から肥料を入れなくても、
窒素供給は持続可能になる

という構造が、
自然栽培の根底にはあります。

実際、高収量の自然栽培水田では、

・土壌中の窒素固定能が高く
・慣行水田と同等、あるいはそれ以上の窒素供給が起きている

ことが、データとして確認されていました。

一方で、
低収量の自然栽培水田では、
この窒素循環が十分に機能していません。

ここで重要なのは、

窒素固定細菌は「いるか・いないか」ではない

という点です。

窒素固定細菌そのものは、
慣行水田にも、自然栽培水田にも、
もともと広く存在しています。

それにもかかわらず、

ある圃場では窒素固定が活発に起き
別の圃場では、ほとんど起きない

という差が生まれる。

この違いを分けているのは、
微生物の「数」や「気合」ではありません。

セミナーで示されていた結論は、
非常にシンプルでした。

窒素固定は、意思ではなく「環境条件」で決まる

ということです。

次章では、
窒素固定が進むか、進まないかを左右する
具体的な条件について掘り下げていきます。

「頑張れば固定される」のではなく、
「条件が整ったときにだけ、自然に起こる」。

自然栽培を理解するうえで欠かせない、
その前提となる考え方です。

窒素固定は「やる気」ではなく「条件」で決まる

自然栽培における窒素固定の話は、
しばしば誤解を生みやすいテーマでもあります。

「窒素固定細菌を増やせばいい」
「有用な微生物を入れれば解決する」

といった発想は、一見もっともらしく聞こえます。

しかし、セミナーで示されていた結論は、
そうした“微生物ありき”の考え方とは少し距離を取るものでした。

窒素固定は、

微生物の能力や意欲によって起きる現象ではない
環境条件がそろったときにだけ、自然に起こる反応

という位置づけです。

実際、窒素固定細菌は
慣行栽培の圃場にも、自然栽培の圃場にも存在しています。

それでも、

慣行栽培では窒素固定がほとんど進まず
自然栽培の一部の圃場では、長期間にわたって高い窒素供給が維持される

という違いが生まれる。

この差を生んでいるのが、
窒素固定が起こるための「条件」です。

講義では、
生物的窒素固定が進むための条件として、次の点が整理されていました。

・反応を進めるためのエネルギー源があること
・土壌中にアンモニア態窒素がほとんど存在しないこと
・酸素が乏しい(嫌気的な)環境であること
・リン酸が不足していないこと

この中でも、
特に重要だと強調されていたのが、

エネルギー源の有無
・窒素が不足している状態であること

の二つです。

窒素固定は、
細菌にとって“楽な仕事”ではありません。

大気中の窒素ガスは非常に安定した分子で、
それをアンモニアに変換するには、
大量のエネルギー(ATP)が必要になります。

もし土壌中に、
すでにアンモニア態窒素が豊富に存在していれば、

細菌は、
わざわざエネルギーを使って窒素固定を行う必要がなくなります。

つまり、

肥料を与えれば与えるほど、
窒素固定は「サボる方向」に切り替わる

という仕組みです。

一方で、

エネルギー源(有機物)はある
でも、使える窒素は少ない

という環境では、

細菌は、自ら窒素を作り出す方向へと切り替わります。

ここで重要なのは、

窒素固定を「起こそう」とするのではなく、
窒素固定が「起きざるを得ない環境」をどう作るか

という発想です。

自然栽培は、
微生物を直接操作する農法ではありません。

環境条件を設計することで、
生物群集の振る舞いを変える農法

だと言えます。

では、その「環境条件」を、
現場では何によってコントロールしているのか。

その答えが、
次章で扱う C/N比 という考え方です。

入れる資材の性質ひとつで、
土壌が「窒素が余る環境」になるのか、
それとも「窒素を作り出す環境」になるのかが決まる。

次章では、
自然栽培における窒素環境の“設計図”とも言える
C/N比の考え方を、具体的に見ていきます。

C/N比という“設計図”──入れる資材で窒素環境が変わる

前章で見てきたように、
窒素固定は「微生物の能力」ではなく、
その場の環境条件によって左右されます。

では、その環境条件を
人は何によって調整しているのか。

その中心にある考え方が、
C/N比(炭素/窒素)です。

C/N比とは、
その資材に含まれる「炭素量」と「窒素量」の比率を表した指標で、
土壌中の窒素環境を大きく左右します。

まず押さえておくべき前提として、
微生物自身にもC/N比があります。

微生物の体を構成するC/N比はおおよそ 5〜10
しかし、微生物は取り込んだ炭素のうち、
約3分の2を呼吸によって消費します。

そのため、

微生物が“増殖に使える炭素”だけで見た場合、
実質的なC/N比は 20〜30程度

になると説明されていました。

この数字は、
どんな資材が「増殖に向いているか」を考えるうえで重要な基準になります。

セミナーでは、
代表的な資材のC/N比がいくつか例示されていました。

C/N比が低い資材(20以下)
・油かす
・鶏ふん
・豚ふん
・米ぬか

これらは、
微生物の増殖に必要な炭素よりも窒素が多いため、
余った窒素が土壌中に放出されやすくなります。

結果として、

・作物の初期生育は良くなる
・土壌中の無機窒素が増える
・窒素固定反応は抑制されやすくなる

という、
化学肥料に近い窒素環境が生まれます。

一方で、
C/N比が高い資材(30以上)になると様子が変わります。

・稲わら
・もみ殻
・おがくず

これらは炭素が多く、
微生物が増殖するためには窒素が不足します。

その結果、

・土壌中の窒素が消費される
・窒素欠乏状態が生まれる
・生物的窒素固定が起こりやすくなる

という方向に環境が傾きます。

ただし、
ここにも落とし穴があります。

C/N比が 高すぎる 資材、
特に木質系の有機物を大量に入れると、

微生物が土壌中の窒素を急激に奪い、
作物が「窒素飢餓」に陥る可能性がある。

つまり、

C/N比が高ければ高いほど良い
という単純な話ではない

という点が重要です。

理想とされていたのは、

・炭素がやや余る
・しかし微生物の活動は止まらない
・結果として窒素固定が効率よく進む

という、
バランスの取れた炭素・窒素環境です。

ここで見えてくるのは、
自然栽培における資材投入が、

「肥料を与える」行為ではなく、
「窒素環境を設計する」行為

だということです。

そして、
この話をさらに一歩進めると、
次の疑問に行き着きます。

同じC/N比の資材であっても、
分解の速さが違えば、
窒素固定への影響も変わるのではないか?

次章では、

有機物は「有機であれば何でもいい」わけではない

という視点から、
分解速度と窒素固定の関係を詳しく見ていきます。

有機物は“何でもいい”わけではない──分解速度と窒素固定

前章で見てきたように、
自然栽培において重要なのは「有機物を入れること」そのものではなく、
炭素と窒素のバランス(C/N比)をどう設計するかでした。

しかし、ここでさらに重要な視点が加わります。

それは、

同じ炭素を含む有機物でも、
分解のスピードはまったく違う

という点です。

セミナーでは、有機物を大きく次のように整理していました。

家畜糞系堆肥

・タンパク質が多い
・分解が早い
・窒素が土壌に放出されやすい

その結果、
土壌中の無機窒素が増えやすく、
生物的窒素固定は抑制されやすい

セルロース系の植物繊維(稲わらなど)

・分解が比較的早い
・分解過程でエネルギー源(糖類)が供給される

このエネルギーがあることで、
窒素固定反応が進みやすい環境がつくられます。

木質系の有機物(おがくずなど)

・分解が非常に遅い
・すぐにエネルギー源にならない

炭素は豊富でも、
微生物が使える形に変わるまでに時間がかかるため、
窒素固定には直結しにくい。

つまり、

・分解が速すぎる → 窒素が余る
・分解が遅すぎる → エネルギー不足
・適度な分解 → 窒素固定が回り始める

という、
分解速度の“ちょうどよさ”が存在します。

ここで重要なのは、

有機物は「入れた瞬間」から効果を発揮するわけではない

という点です。

有機物は、
微生物に分解されて初めて、
エネルギー源として利用されます。

そして、そのエネルギーがあって初めて、
窒素固定という“重たい反応”が動き出します。

つまり、

有機物 → 分解 → エネルギー供給 → 窒素固定

という流れが成立しなければ、
自然栽培の窒素循環は回りません。

ここで、
自然と次の疑問が浮かびます。

分解を進める条件は、何によって決まるのか?

特に水田では、
同じ有機物を入れても、

・分解が進む田んぼ
・ほとんど進まない田んぼ

がはっきり分かれることがある。

その“分かれ目”として、
セミナーで繰り返し強調されていたのが、
「乾燥」という要素でした。

次章では、
水田という特殊な環境で起きている、

有機物分解 → 微生物のバトンリレー → 窒素固定

という一連の流れを、
「分解リレー」という視点から見ていきます。

なぜ、水を抜いて乾かすだけで、
窒素供給力が大きく変わるのか。

その理由が、
ここから少しずつ見えてきます。

水田で起きている“分解リレー”──乾燥がスイッチになる理由

前章では、
自然栽培において有機物は「入れれば終わり」ではなく、

分解されてはじめて、
窒素固定につながるエネルギー源になる

という点を見てきました。

では、その分解を進める条件は何によって決まるのか。
特に水田では、この点が収量を大きく左右します。

セミナーで示されたデータの中で、
非常に印象的だったのが、

同じ無肥料・同じ品種でも、
「土壌を乾かしたかどうか」だけで、
生育と窒素濃度が大きく変わる

という結果でした。

乾燥した土壌で、何が起きているのか

水田というと、
「水が張られている状態」が基本のように思えます。

しかし、水が常に多い状態では、

・酸素が届きにくい
・分解に関わる微生物の活動が制限される

という側面があります。

一方で、
一時的に土壌を乾燥させると、

・空気が入り
・酸素呼吸が可能になり
・有機物の分解が一気に進む

という変化が起きます。

このとき、
稲わらなどの植物繊維は、

デンプン → 糖類 → 有機酸(酢酸など)

という形で段階的に分解されていきます。

この流れは、
セミナーでは日本酒づくりになぞらえて説明されていました。

・麹菌がデンプンを糖に変える
・酵母が糖を別の物質へ変換する

水田でも同じように、
複数の微生物が役割を分担しながら、
有機物を次の形へと“受け渡し”していく

これが、
水田で起きている「分解リレー」です。

分解の最終段階で、窒素固定が始まる

重要なのは、
この分解リレーが進んだ終盤です。

有機物が、

・糖
・酢酸
・水素

といった形にまで分解されると、
それをエネルギー源として利用する微生物が現れます。

その中には、

・鉄還元菌
・硫酸還元菌
・メタン関連微生物

といった、
窒素固定能力を持つ細菌群が含まれています。

つまり、

乾燥によって分解が進む

エネルギー源が供給される

窒素固定が活性化する

という流れが、水田の中で成立しているのです。

ここで重要なのは、

窒素固定は、
いきなり始まるわけではない

という点です。

その前段階として、

・有機物が存在する
・それを分解できる環境が整っている
・分解を担う微生物が活動できる

という条件がすべてそろって、
初めて窒素固定にバトンが渡されます。

「乾燥」は、分解リレーのスイッチ

この一連の流れを見ると、
水田における「乾燥」は、

単なる水管理ではなく、
微生物の役割交代を起こすスイッチ

だということがわかってきます。

では、
この分解リレーを担っている微生物とは、
具体的にどんな存在なのでしょうか。

ここから話の焦点は、

・誰が最初に有機物を分解し
・誰が次に受け取り
・誰が窒素固定を担っているのか

という、
「見えない主役たち」へと移っていきます。

次章では、
この分解リレーの中心にいる、

真菌(糸状菌)と細菌

という二つの微生物グループに注目し、
それぞれがどんな役割を果たしているのかを、
もう一段深く掘り下げていきます。

真菌と細菌──“見えない主役”が土を動かしている

前章では、水田で起きている有機物分解が、
単一の反応ではなく、

複数の微生物による「分解リレー」

として進んでいることを見てきました。

では、そのリレーを担っているのは誰なのか。
セミナーで強調されていたのが、

土壌の世界では、
真菌(糸状菌)と細菌が主役である

という視点でした。

土壌生物量の大半は「目に見えない存在」

私たちは普段、
ミミズや昆虫の存在に目が行きがちですが、
生物量という観点で見ると、土壌の主役はまったく別です。

土壌1gあたりに存在する生物量を見ると、

・細菌
・真菌(糸状菌)

が圧倒的な割合を占めています。

つまり、

土を動かしているのは、
目に見える生き物ではなく、
ほとんどが微生物

だということになります。

この二者は、
似ているようで、実は得意分野がはっきり分かれています

真菌の役割──「分解の先頭に立つ存在」

まず登場するのが、真菌(糸状菌)です。

真菌は、

・セルロース(植物繊維)
・ヘミセルロース
・さらにはリグニン(木質成分)

といった、
分解が難しい有機物を分解できる能力を持っています。

特に重要なのは、

細菌だけでは分解できない成分を、
真菌が“最初にほどいてくれる”

という点です。

稲わらや草、木質系資材は、
そのままでは窒素固定細菌にとって
利用しにくい形をしています。

そこに真菌が入り、

・酵素を使って
・時間をかけて
・有機物を細かく分解する

ことで、
次の微生物が使える形へと変換していきます。

細菌の役割──「エネルギーを使って回す存在」

真菌によって分解が進むと、
有機物は、

・糖類
・有機酸(酢酸など)
・水素

といった、
細菌が利用しやすい形になります。

ここで活躍するのが細菌です。

細菌は、

・分解された有機物を呼吸で利用し
・エネルギーを獲得し
・そのエネルギーを使って窒素固定を行う

という役割を担います。

つまり、

真菌が「ほどく」
細菌が「使う」

という分業関係が成立しているのです。

真菌と細菌は「競争」ではなく「連携」

ここで重要なのは、
真菌と細菌はどちらが優れているかではなく、

どちらも揃って初めて、
自然栽培の窒素循環が回り出す

という点です。

・真菌だけが多くても、窒素固定は進まない
・細菌だけがいても、エネルギー源が供給されない

この二者が、

・適切な割合で
・適切なタイミングで
・適切な環境条件のもとで

活動することで、
はじめて高い窒素供給力が生まれます。

土壌環境が、微生物の比率を決めている

セミナーでは、
土地利用の違いによる微生物構成の違いも紹介されました。

・森林:真菌が多い
・畑:真菌と細菌がほぼ半々
・水田(水没状態):細菌が優位

水田では、
常に水があると真菌が活動しにくくなります。

だからこそ、

一時的な乾燥によって
真菌が活動できる時間をつくる

ことが、
分解リレー全体を回すうえで重要になるのです。

ここまでを踏まえて見えてくること

ここまでの話を整理すると、
自然栽培で起きているのは、

・偶然の微生物活性ではなく
・精神論でもなく

微生物の役割分担を前提とした、
環境条件の設計

だということが見えてきます。

そして、この考え方を
非常にわかりやすい形で実践に落とし込んだ例として、
次に紹介されたのが「菌ちゃん農法」でした。

次章では、
菌ちゃん農法を単なる栽培ノウハウとしてではなく、

「窒素固定を回すための環境設計」

という視点から読み解いていきます。

菌ちゃん農法は“窒素固定を回す環境設計”として読める

ここまで見てきたように、
自然栽培で高い収量を支えているのは、

・微生物そのもの
・特定の「良い菌」
ではなく、

真菌と細菌が連携して働ける「環境条件」

でした。

この視点でセミナー中に紹介されていたのが、
いわゆる「菌ちゃん農法」です。

菌ちゃん農法の本質は「菌を入れること」ではない

名前から、

・特別な菌を投入する農法
・微生物資材を使う方法

のように誤解されがちですが、
セミナーの説明では、
まったく違う位置づけがされていました。

菌ちゃん農法の核心は、

微生物が働きやすい環境を、
意図的につくること

にあります。

つまり、

・菌を足す農法ではなく
菌が増え続ける場を設計する農法

だということです。

高畝がつくる「分解のステージ」

菌ちゃん農法で特徴的なのが、高畝(たかうね)です。

高畝には、いくつかの重要な意味があります。

・排水性が高く、空気が入りやすい
・乾湿のメリハリがつく
・上層と下層で分解速度が異なる

この構造によって、

・上層では分解の早い有機物
・下層では分解の遅い有機物

が共存します。

結果として、

短期的にも、長期的にも、
微生物のエネルギー供給が途切れにくい

環境が生まれます。

分解 → エネルギー → 窒素固定、という一本の流れ

ここまでの章で見てきた知識を重ねると、
菌ちゃん農法で起きていることは明確です。

  1. 真菌が有機物を分解する
  2. 分解によって糖類・有機酸が生まれる
  3. 細菌がそれをエネルギー源として利用する
  4. 細菌が窒素固定を行う
  5. 作物に持続的な窒素が供給される

つまり、

有機物分解と窒素固定を
同時に回し続ける設計

がなされているのです。

この点で菌ちゃん農法は、

・有機物を「入れる」こと
・菌を「増やす」こと

が目的ではなく、

循環が回り続ける“条件”をつくること

に主眼が置かれていると読み取れます。

なぜ家庭菜園で成功しやすいのか

セミナーでは、
菌ちゃん農法が家庭菜園で成功しやすい理由にも触れられていました。

・高畝を作りやすい
・少量の有機物を丁寧に配置できる
・水管理・乾燥管理がしやすい

これらはすべて、

微生物の分解リレーを
人の手で“管理しやすい規模”

であることに由来しています。

一方で、大規模農業では
そのままの形で再現するのが難しいため、

原理を理解したうえで、
圃場条件に合わせて応用する

必要がある、という位置づけでした。

菌ちゃん農法は「特別な例」ではない

ここで重要なのは、
菌ちゃん農法が自然栽培の“例外”ではないという点です。

むしろ、

これまで見てきた
・C/N比
・分解速度
・真菌と細菌の役割
・乾燥と嫌気のバランス

といった要素を、
非常にわかりやすく形にした実践例

だと言えます。

この章までで、
自然栽培における窒素供給の仕組みは、

・精神論でも
・偶然でもなく

循環が「回り始める条件」を
いかに設計するか

に集約されることが見えてきました。

まとめ:自然栽培は“回り始めた循環を大きくする技術”

第9回のセミナーを通して、
自然栽培の「技術的な正体」が、
かなりはっきりしてきたように感じます。

それは、

自然栽培とは、
何も入れない農法ではない

回り始めた循環を、
どうやって大きくしていくかの技術

だということです。

収量の差は「偶然」ではなかった

同じ無肥料でも、

・高収量水田
・低収量水田

がはっきり分かれる理由は、

・やる気
・センス
・運

ではありませんでした。

そこには、

・有機物量
・分解の進み方
・微生物の構成
・窒素固定が起こる条件

という、
積み重なった環境の差が存在していました。

自然栽培は「放置」では成立しない

もう一つ強く印象に残ったのは、

自然栽培は、
放っておけばうまくいく農法ではない

という点です。

むしろ、

・最初は微生物を増やすための投入が必要
・C/N比を意識した資材選びが必要
・乾燥や排水など物理環境の調整が必要

といった、
かなり意図的な設計が求められます。

「入れない」のは、回り始めてから

自然栽培が非投入型になるのは、

・微生物が増え
・分解と窒素固定が安定し
・作物自身が大量の有機物を生み出せる

ようになってからです。

そこに至るまでには、

循環を立ち上げるための準備期間

が必ず存在します。

この準備を飛ばしてしまうと、
低収量のまま何年も停滞する、
という構図も非常に理解しやすくなりました。

見えてきた自然栽培の核心

今回の回を一言でまとめるなら、

自然栽培とは、
「肥料の代わりに、循環を育てる農業」

なのだと思います。

・光合成
・呼吸(分解)
・窒素固定

この三つがうまく噛み合い、

回り始めた循環を、
年々少しずつ大きくしていく

それこそが、
自然栽培の技術的な核心なのだと感じました。

次回はいよいよ、
窒素に続くもう一つの重要な要素、
リンやカリがどのように関わってくるのかがテーマになります。

循環の全体像は、
まだもう一段、深くなりそうです。

もちまるの感じたこと(個人的感想として)

第9回のセミナーを終えて、
正直なところ、これまでの回の中でも かなり頭を使った回 でした。

微生物、分解、窒素固定、C/N比、真菌と細菌の役割……
一つひとつは難しい話なのに、
それらがすべて一本の流れとしてつながっていく感覚がありました。

「自然栽培=何もしない」は完全に誤解だった

今回、いちばん強く感じたのは、

自然栽培は、決して“何もしない農法”ではない

ということです。

むしろ、

・どんな有機物を
・どのタイミングで
・どんな状態の土に
・どんな環境条件で

入れるのか(あるいは入れないのか)を、
かなりシビアに考える必要がある。

自然栽培は「感覚」や「思想」ではなく、
循環を立ち上げ、維持し、拡張していくための技術
なのだと、今回のセミナーで腑に落ちました。

なぜ「無肥料で失敗する人」が多いのかが見えた

これまで、

「自然栽培は難しい」
「無肥料だと育たない」

といった話をよく聞いてきましたが、
その理由も今回かなり明確になりました。

・微生物が十分にいない
・有機物の質やC/N比を考えていない
・分解と窒素固定がつながっていない

この状態で「無肥料」を貫いてしまうと、
低い循環のまま何年も停滞する。

無肥料=自然栽培
ではなく、
循環が回り始めて初めて、無肥料が成立する

この順番を間違えると、
挫折するのはむしろ当然なのだと思いました。

「投入するか・しないか」ではなく「どこで止めるか」

今回の話を聞いて、
農業における「投入」という言葉の捉え方も変わりました。

・慣行栽培は、化石エネルギーを使って投入し続ける
・自然栽培は、循環が回り始めるまで一時的に投入する

違いは、

投入の有無ではなく、
どこで投入を止められるか

なのだと感じます。

循環が自走し始めた段階で、
外部投入をやめても回り続ける。

そこを目指すからこそ、
自然栽培は「非投入型農業」と呼ばれるのだと思います。

「菌ちゃん農法」が腑に落ちた瞬間

これまで名前だけ知っていた「菌ちゃん農法」も、
今回の内容で見え方が変わりました。

特別な農法でも、
魔法のような方法でもなく、

分解と窒素固定を回す条件を、
非常にわかりやすく形にした実践例

だったのだと理解できました。

「菌を入れる」のではなく、
「菌が仕事を始めざるを得ない環境をつくる」。

この発想は、
今後出てくる他の技術的な話を理解するための
重要な土台になる気がしています。

自然栽培は「循環を育てる農業」

今回の回を通して、
自分の中で自然栽培の定義は、かなり明確になりました。

それは、

作物を育てる農業ではなく、
循環を育てる農業

だということです。

・循環が小さいうちは収量も小さい
・循環が育てば、収量も自然に大きくなる

その循環を、

・焦らず
・無理をせず
・理屈を理解したうえで

少しずつ育てていく。

それが自然栽培の本質なのだと、
今回のセミナーで強く感じました。

次回はいよいよ、
窒素と並ぶ重要な要素である
リンやカリ の話に入っていきます。

循環のピースは、
まだすべて揃っていません。

でも今回で、
「回り始めた循環を大きくする」という
自然栽培の核心が、ようやく見えてきた気がします。

――ここから先は、
その循環をどう“完成形”に近づけていくのか。

次の回も、かなり楽しみです。

▶ 次回レポート
第10回

「無肥料なのに、なぜ枯渇しない?自然栽培土壌の『ミネラル循環』を学んだ日」

第9回では、

  • 同じ無肥料でも、なぜ収量に差が生まれるのか
  • 高収量の自然栽培土壌では、何が起きているのか
  • 窒素はどこから来て、どのように循環しているのか
  • 「回る畑」と「回らない畑」を分ける条件とは何か

といった点について、
窒素循環という視点から、
自然栽培土壌の仕組みを整理しました。

前回の話を通して、
「窒素は空気中から供給され、循環する」
という全体像が見えてきた一方で、
もう一つ、気になってくる疑問があります。

リンやカリウム、カルシウム、マグネシウムといった
土壌ミネラルは、どこから供給されているのか。

窒素と違い、
これらは空気中に無限に存在しているわけではありません。
作物を収穫し続ければ、
いずれ枯渇してしまうのではないか、
という疑問が自然に浮かんできます。

次回は、

  • 無肥料を30年以上続けた土壌の実測データ
  • 慣行栽培と自然栽培のミネラル含有量の違い
  • 栽培年数と土壌ミネラルの関係
  • CECやpHが果たしている役割
  • リンがどのように供給されているのか

といった点を手がかりに、
「無肥料なのに、なぜ土壌ミネラルは枯渇しないのか」
という問いに向き合っていきます。

「肥料を入れないと減る」という前提は、
本当に正しいのか。
自然栽培の土壌で起きている
ミネラル循環の全体像を、
データをもとに整理していく回です。

▶ 第10回のレポートを読む
https://sanseitohow.com/natural-farming-soil-mineral-cycle-report10/

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