【もちまる】どの種を選ぶかで、農業は変わる。自然栽培に適した品種を学んだ日【レポート8】

レポート

この記事の要約

本記事では、
自然栽培セミナー第8回の内容をもとに、

「自然栽培に適した品種とは何か」
「品種改良や種子の仕組みは、農業にどんな影響を与えてきたのか」

というテーマを整理しています。

セミナーではまず、
現在主流となっている品種の多くが、

・化学肥料を前提とした環境
・効率的な収量確保
・均一性や流通のしやすさ

を重視して改良されてきた
「緑の革命以降の栽培環境」に適応した品種であることが確認されました。

そのうえで、

・自家受粉と他家受粉の違い
・F1品種の仕組みと、その前提条件
・遺伝子組み換えとゲノム編集の位置づけ
・種子法から種苗法への制度変更
・自家採種できる品種/できない品種の整理

など、
種子と品種をめぐる技術・制度の構造が丁寧に解説されました。

後半では、
自然栽培という文脈において、

・在来種や古い品種が持つ意味
・現代品種とは異なる価値
・品質のばらつきや収量など、現実的な課題
・制度改正によって広がった選択肢

といった点を踏まえながら、
自然栽培における「品種選びの考え方」が整理されていきます。

技術的な栽培方法だけでなく、
「どんな品種を選ぶか」「どんな前提で育てるか」が、
自然栽培の可能性や経営の方向性に深く関わっている――
そんな気づきが、今回のセミナー全体を通して浮かび上がってきました。

最後には、
これらの内容を踏まえた
もちまる自身の視点として、

自然栽培は、
過去の品種や地域の文化を
もう一度“選び直す”農業でもあるのかもしれない

という実感が語られます。

このレポートは、
自然栽培セミナー全15回を「もちまる視点」で追いかける連載企画の第8回です。

▼ この連載をまとめて読む
→ もちまる自然栽培セミナー・全話まとめガイドはこちら
https://sanseitohow.com/natural-farming-series-2/

はじめに

本記事は、
自然栽培セミナー第8回の内容をもとに、

「自然栽培に適した品種とは何か」
「種子や品種改良は、どのように農業の形を変えてきたのか」

というテーマを、
もちまる視点で整理したレポートです。

今回のセミナーでは、

・品種改良が進んできた歴史
・F1品種や自家採種のしくみ
・遺伝子組み換え・ゲノム編集の位置づけ
・種子法から種苗法への制度変更
・在来種や古い品種が持つ可能性

など、
「作物を育てる以前に、何を選ぶのか」という、
農業の根っこの部分が扱われました。

自然栽培というと、
肥料や農薬を使わない技術的な話に目が向きがちですが、
実際には、

どんな品種を選び、
どんな前提のもとで栽培するのか

が、経営や持続性に大きく関わってくることが、
今回の回を通して見えてきます。

なお、本記事では、
特定の農法や技術、制度を評価・批判することを目的とせず、

・セミナーで紹介された内容
・制度や仕組みの整理
・それを踏まえた「見取り図」

を中心にまとめています。

自然栽培の実践に向かう前段として、
「種子と品種」という視点から、
農業をもう一度見直す回
として、
読み進めてもらえれば幸いです。

      1. この記事の要約
      2. はじめに
  1. 品種改良は「緑の革命」を支えた技術だった
  2. 「緑の革命」に適した品種の特徴
  3. 品種改良(育種)の基本的な技術
    1. ① 純系選抜(主に自殖性作物)
    2. ② 集団選抜(主に他殖性作物)
    3. ③ F1(一代雑種)品
    4. 技術は「どの環境を前提にするか」で意味が変わる
  4. 自家受粉と他家受粉がもたらす違い
    1. 自家受粉作物の特徴
    2. 他家受粉作物の特徴
    3. 自然栽培との相性という視点
    4. 次に見えてくる「F1品種」という存在
  5. F1品種という仕組みと、その前提
    1. F1品種とは何か
    2. なぜF1は「次の世代」で崩れるのか
    3. F1品種が広く普及した理由
    4. 自然栽培との関係性
    5. 品種改良はどこまで人が介入するのか
  6. 遺伝子組み換えとゲノム編集の位置づけ
    1. 遺伝子組み換えとは何か
    2. ゲノム編集とは何が違うのか
    3. 自然栽培との距離感
    4. 技術そのものより「前提」が問われる
  7. 種子法から種苗法へ──制度が変えたもの
    1. かつての種子法とは何だったのか
    2. 種子法の廃止と、その後
    3. 種苗法とは何か
    4. 制度がもたらした変化
    5. 技術ではなく「ルール」が境界線になる
  8. 自家採種できる品種/できない品種
    1. 自家採種できない品種
      1. ① 育成後25年以内の登録品種
      2. ② F1(一代雑種)品種
    2. 自家採種できる品種
      1. ① 育成後25年以上経過した品種
      2. ② 在来種・固定種
    3. 「できる/できない」はゴールではない
  9. 自然栽培に適した品種の考え方
    1. ① 新しい品種=不向き、ではない
    2. ② 自然栽培の「本当の強み」
    3. ③ 在来種・固定種との相性
    4. ④ 「品種を選ぶ」というより「育てていく」
  10. 在来種とは何か、そしてその可能性
    1. 在来種は「環境の記憶」を持った品種
    2. 自然栽培との相性が良い理由
    3. 経営面・文化面での可能性
    4. それでも、理想だけでは語れない
  11. 在来種の欠点と、現実的な向き合い方
    1. 在来種が抱えやすい課題
    2. 収量と安定性の問題
    3. 病害への耐性と、温暖化という新しい壁
    4. それでも在来種を選ぶ意味
    5. 経営と文化を両立させる視点
  12. 自然栽培農産物の表示ルール
    1. 農産物表示の基本的な枠組み
    2. 「無肥料・無農薬」は表示できない
    3. 自然栽培という言葉は使えるのか
    4. なぜここまで厳しいのか
    5. 表示は制約だが、同時に“前提条件”
  13. 第13章|制度改正が開いた“古い品種”の可能性
    1. 産地品種銘柄制度の見直しとは
    2. 改正によって何が変わったのか
    3. 自然栽培 × 古い品種 の相性
    4. 差別化ではなく、「選べるようになった」という変化
    5. ここまでの整理
  14. 最終章|もちまるの感じたこと(個人的感想として)

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第7回「肥料を入れないのに、なぜ育つ?自然栽培の仕組みを学んだ日」
https://sanseitohow.com/natural-farming-mechanism/


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第9回「無肥料なのに、なぜ差がつく?自然栽培土壌の『窒素循環』を学んだ日」
https://sanseitohow.com/natural-farming-nitrogen-cycle/

品種改良は「緑の革命」を支えた技術だった

セミナーではまず、
品種改良という技術を 単体で見るのではなく、農業全体の流れの中で捉える という整理が行われました。

いわゆる「緑の革命」は、

・化学肥料の普及
・合成農薬の導入
・土壌改良技術の進展
・品種改良

という複数の技術が組み合わさることで成立した農業の大きな転換点です。

この中で、
品種改良は「作物そのものの性質」を変える技術として位置づけられています。

つまり、

栽培環境が変われば、
その環境で最大限の力を発揮できる作物の形も変わる。

という前提に立った技術だということです。

実際、緑の革命によって農地の環境は大きく変化しました。

化学肥料の使用によって、
それまでとは比べものにならないほど多くの栄養分が、短期間で土壌に供給されるようになったのです。

この「環境の変化」に対して、

・どのような作物が適応しやすいのか
・どのような形質が収量の安定につながるのか

を追求する中で、
品種改良の方向性も自然と定まっていきました。

ここで重要なのは、

品種改良そのものが「良い・悪い」という話ではなく、
どのような栽培環境を前提に設計された技術なのか
という点です。

自然栽培の文脈で品種を考えるときも、

「今の主流品種は、どんな環境を想定して作られてきたのか?」

を理解しておくことが、出発点になります。

そこで次章では、
緑の革命によって生まれた 「環境の変化」と、それに適応するために選ばれてきた品種の特徴 を、
もう少し具体的に見ていきます。

「緑の革命」に適した品種の特徴

緑の革命によって農業の環境が大きく変わると、
それまで当たり前だった作物の「強み」や「良さ」も、別の意味を持つようになりました。

とくに大きかったのが、
化学肥料の大量投入によって、作物がかつてないほどよく育つ環境が生まれた
という点です。

この環境の変化が、
イネやムギなどの作物に、思わぬ課題をもたらしました。

それが「倒伏(とうふく)」です。

栄養が豊富になりすぎることで、

・茎や葉が過剰に成長する
・穂が重くなりすぎる
・結果として、作物が倒れてしまう

という現象が頻発するようになりました。

倒伏は、収量や品質を大きく下げる原因になります。

そこで品種改良の方向性として選ばれたのが、

草丈を低くし、倒れにくい作物をつくる

というアプローチでした。

草丈が低くなれば、

・風や雨に強くなる
・肥料を多く吸収しても倒れにくい
・機械化にも対応しやすい

といった利点が生まれます。

さらに、
茎や葉(ワラ)の割合が相対的に減り、
穂や実の割合が高まることで、収量の向上にもつながりました。

セミナーでは、

現在のイネ品種では、10aあたり約500kg前後の収量が一般的
一方、古い品種では400kg前後にとどまるものが多い

という数字も紹介され、
緑の革命以降の品種改良が、確かに収量を引き上げてきたことが確認されました。

ただし、ここで押さえておきたいのは、

これらの特徴はすべて、

・化学肥料を使う
・栄養条件が豊富である
・病害虫は農薬で抑える

という 「投入型の栽培環境」を前提に最適化された形 だという点です。

裏を返せば、

肥料を入れない
栄養条件が低い
生態系のバランスに依存する

といった自然栽培の環境では、
必ずしも同じ強みが発揮されるとは限りません。

では、
こうした作物の性質は、どのような技術によって作り出されてきたのでしょうか。

次章では、
品種改良の現場で実際に使われてきた 「育種の基本的な技術」 について、
自家受粉・他家受粉・F1品種といったキーワードを軸に整理していきます。

品種改良(育種)の基本的な技術

ここまで見てきたように、
緑の革命以降の農業では、栽培環境に合わせて作物そのものを変えていくことが重要な技術となってきました。

その中心にあるのが「品種改良(育種)」です。

セミナーでは、品種改良の技術は大きく次のように整理されていました。

品種改良(育種)の主な技術

  1. 純系選抜
  2. 集団選抜
  3. F1(一代雑種)品種
  4. 遺伝子組み換え
  5. ゲノム編集

ここではまず、
自然栽培との関係を考えるうえで特に重要な、
1〜3の「従来型の育種技術」に焦点を当てていきます。

① 純系選抜(主に自殖性作物)

純系選抜は、
自家受粉を行う作物の中から、性質の良い個体を選び続け、
遺伝的に安定した系統をつくる方法です。

稲や小麦、大豆などはこの方法で改良されてきました。

この技術の特徴は、

・遺伝的に均一な品種を作りやすい
・一度安定すると、次世代も同じ性質を保ちやすい
・農家が自家採種しやすい

という点にあります。

緑の革命以前の多くの品種は、
このような形で少しずつ改良され、地域に定着してきました。

② 集団選抜(主に他殖性作物)

一方、
トウモロコシやアブラナ科野菜など、
他家受粉を行う作物では、集団選抜という方法が使われます。

これは、

・多様な個体が混ざった集団を維持しながら
・環境に適応したものを少しずつ選び残す

という育種方法です。

純系ほど遺伝的に揃うわけではありませんが、

・環境変化に強い
・地域の条件に適応しやすい

という特徴を持つ集団が育ちやすくなります。

自然栽培と相性が良いとされる在来種や固定種の多くは、
このような集団選抜の歴史を経てきたものです。


③ F1(一代雑種)品

現在の市場で広く使われているのが、
F1(一代雑種)品種です。

これは、
遺伝的に異なる2つの親系統を交配し、
その第一世代(F1)だけを利用する方法です。

F1品種の特徴として、

・生育が揃いやすい
・収量が高い
・品質が安定しやすい

といった点が挙げられます。

一方で、

・F1の種を自家採種すると、次世代(F2)で性質が大きくばらつく
・そのため、毎年種子を購入する必要がある

という仕組みでもあります。


技術は「どの環境を前提にするか」で意味が変わる

ここまでの育種技術を見てくると、
重要なのは「どれが良い・悪いか」ではなく、

どの栽培環境を前提に最適化されているか

という点だと感じました。

・肥料と農薬を前提とした環境
・環境変化に対応することを重視した環境
・外部投入を抑え、生態系に委ねる環境

それぞれに合った品種改良の方向性があります。

そして、その分かれ目になるのが、
次に見る 「受粉のしかた」 です。

自家受粉なのか、他家受粉なのか――
この違いが、
品種の安定性や自家採種のしやすさ、
自然栽培との相性に大きく影響してきます。

次章では、
自家受粉と他家受粉がもたらす違いを整理しながら、
「なぜ自然栽培では固定種・在来種が語られるのか」
その理由を掘り下げていきます。

自家受粉と他家受粉がもたらす違い

品種改良の話をもう一段深く理解するために、
ここで重要になるのが 「受粉のしかた」 です。

作物は大きく分けて、

自家受粉を行う作物
他家受粉を行う作物

の二つに分けられます。
この違いは、品種の安定性や、種をどう扱えるかに直結します。


自家受粉作物の特徴

自家受粉とは、
同じ個体の花粉で受粉が完結するタイプの作物です。

代表的なものとしては、

・イネ
・小麦
・大麦
・大豆(枝豆)
・インゲン
・ナス科野菜(トマト、ナス、ピーマンなど)

が挙げられます。

自家受粉作物の大きな特徴は、

・世代を重ねても遺伝的な性質が変わりにくい
・比較的、均一な形質を保ちやすい
・農家が自家採種しやすい

という点です。

一度良い性質の品種ができれば、
その種を取り続けることで、
同じ特徴を持つ作物を育て続けることができます。

このため、
緑の革命以前の農業や、
地域ごとの在来品種は、
自家受粉作物を中心に発展してきました。


他家受粉作物の特徴

一方、
他家受粉は、
異なる個体どうしの花粉によって受粉が行われるタイプです。

代表例としては、

・トウモロコシ
・アブラナ科野菜(大根、白菜、キャベツなど)
・ウリ科野菜(キュウリ、メロン、スイカなど)

があります。

他家受粉作物の特徴は、

・遺伝的に多様な個体が混ざりやすい
・環境変化への適応力が高い
・一方で、形質が揃いにくい

という点です。

自家採種を行う場合も、

・周囲から別の花粉が入らないように隔離する
・選抜を続けて集団の性質を整える

といった手間が必要になります。

その分、
地域の環境に適応した集団が育つと、
その土地ならではの作物として定着しやすい、
という側面も持っています。


自然栽培との相性という視点

ここで自然栽培との関係を考えると、

自家受粉作物
 → 品質が安定しやすく、自家採種がしやすい

他家受粉作物
 → 環境適応力が高く、地域性が出やすい

という、それぞれ異なる強みがあることが見えてきます。

自然栽培では、

・外部から資材を入れにくい
・年ごとの環境変動の影響を受けやすい

という条件があるため、
「環境にどう適応するか」「種をどう引き継ぐか」が重要になります。

そのため、

・在来種
・固定種

といった、
自家採種を前提とした品種が注目されやすい理由も、
ここにあります。


次に見えてくる「F1品種」という存在

ただし、
現在の農業現場で広く使われているのは、
必ずしもこうした品種だけではありません。

市場に流通する多くの野菜や作物は、
F1品種と呼ばれるものです。

F1品種は、

・自家受粉/他家受粉
という区分とは別の次元で、

「どの世代を使うか」
という前提を組み込んだ仕組みを持っています。

次章では、
F1品種とは何か
なぜ安定した品質と高収量が得られるのか、
そしてその仕組みがどんな前提の上に成り立っているのかを、
自然栽培の視点も交えながら整理していきます。

F1品種という仕組みと、その前提

ここまで、

・自家受粉と他家受粉
・在来種や固定種が持つ特徴

を見てきましたが、
現代の農業現場で圧倒的に多く使われているのは
F1品種(一代雑種) です。

自然栽培を考えるうえでも、
このF1品種の仕組みを正しく理解しておくことは欠かせません。


F1品種とは何か

F1品種とは、

遺伝的に異なる2つの親系統を交配して得られる
第一世代(First Filial Generation) の作物

を指します。

たとえば、

・親A
・親B

という、性質の異なる2系統を掛け合わせると、

・F1世代 → AとBの性質を併せ持つ

という状態になります。

このF1世代には、

・生育がそろいやすい
・収量が高い
・病気に強い
・形や味が均一

といった、
商業栽培にとって非常に都合のよい特性 が現れやすくなります。

これを「雑種強勢」と呼びます。


なぜF1は「次の世代」で崩れるのか

F1品種の重要な前提は、

F1世代だけが、安定した性能を持つ

という点です。

F1から種を取って次の世代(F2)を育てると、

・Aに近い個体
・Bに近い個体
・AとBが混ざった個体

が入り混じって現れます。

その結果、

・生育のばらつき
・収量の低下
・品質の不安定化

が起こりやすくなります。

つまり、

F1品種は
「毎年、新しい種を購入すること」を前提とした品種

だということです。


F1品種が広く普及した理由

F1品種は、

・大量生産
・規格の統一
・流通の効率化

と非常に相性がよく、
慣行栽培の拡大とともに急速に普及してきました。

化学肥料・農薬を前提とした栽培環境では、

・均一な作物
・計算しやすい生育
・予測可能な収量

が求められます。

F1品種は、
こうした「投入型農業」の環境に合わせて設計された品種
とも言えます。


自然栽培との関係性

一方、自然栽培では、

・外部資材に頼らない
・年ごとの環境変化が大きい
・圃場ごとの差が出やすい

という特徴があります。

このような環境では、

・毎年同じ条件で育てること
・均一性を前提にすること

そのものが難しくなります。

そのため、

・自家採種ができない
・毎年種を購入する必要がある

というF1品種の前提は、
自然栽培の思想とは必ずしも噛み合いません。

もちろん、

F1品種=悪
という話ではありません。

ただ、

F1品種は「投入型農業の前提」とセットで成立している

という構造を理解しておくことが大切だと感じました。


品種改良はどこまで人が介入するのか

ここまで見てきた品種改良は、

・交配
・選抜

といった、
生物が本来持つ仕組みを利用した技術でした。

しかし現代では、
それとは別のアプローチとして、

・遺伝子組み換え
・ゲノム編集

といった技術も登場しています。

これらは、

・F1品種
・在来種
・固定種

とはまた違う次元で、
「人がどこまで作物の内部に介入するか」という問題を含んでいます。

次章では、
遺伝子組み換えとゲノム編集が、品種改良の中でどこに位置づけられるのか
そして、自然栽培の考え方とどう関係してくるのかを整理していきます。

遺伝子組み換えとゲノム編集の位置づけ

ここまで見てきた品種改良は、

・交配
・選抜
・F1品種の作出

といった、生物が本来持つ繁殖の仕組みを利用した技術でした。

一方で、現代の品種改良には、
それとは異なるアプローチとして

・遺伝子組み換え
・ゲノム編集

といった技術も存在します。

これらは「品種改良」という同じ言葉で語られがちですが、
介入のレベルと前提が大きく異なる技術だと整理できます。


遺伝子組み換えとは何か

遺伝子組み換えは、

・他の生物が持つ遺伝子を
・人工的に作物の遺伝子に組み込む

という技術です。

代表的な例としては、

・害虫耐性作物(Btトウモロコシなど)
・除草剤耐性作物
・病害抵抗性作物

などが挙げられます。

これらは、

・特定の性質を明確に付与できる
・投入型農業との相性が非常に良い

という特徴を持つ一方で、

・自然界では起こらない遺伝子の組み合わせ
・長期的な影響をどう評価するか

といった点について、
社会的に慎重な議論が続いてきました。


ゲノム編集とは何が違うのか

ゲノム編集は、

・外来遺伝子を新たに入れるのではなく
・もともと作物が持っている遺伝子の一部を
・狙った形で切ったり、働きを弱めたりする

という技術です。

たとえば、

・特定の酵素の働きを抑える
・成長や成熟に関わる遺伝子を調整する

といった形で性質を変えます。

このため、

・外来遺伝子が残らない
・理論上は自然突然変異と区別がつかない

とされ、
遺伝子組み換えとは制度上も別扱いされています。

実際、日本では
ゲノム編集作物については
表示義務が課されていません。


自然栽培との距離感

セミナーでは、

遺伝子組み換えやゲノム編集そのものを
善悪で評価するというよりも、

・どのような農業システムを前提にした技術か
・どの価値観と組み合わされて使われるのか

という視点で整理されていました。

自然栽培は、

・外部投入を極力減らす
・環境に適応した作物と生態系の関係を育てる

という考え方を重視します。

そのため、

・遺伝子レベルで性質を固定する技術
・環境側を作物に合わせる発想

とは、
方向性がやや異なる位置にあると言えそうです。


技術そのものより「前提」が問われる

ここまでの話を通して感じたのは、

・遺伝子組み換え
・ゲノム編集
・F1品種
・在来種

のどれが正しいか、という単純な話ではなく、

どの農業システムを前提に、
どの技術を選ぶのか

が問われている、という点でした。

そしてこの「選択」は、

・農家個人の判断
・消費者の価値観

だけでなく、

法律や制度によっても大きく方向づけられている

という現実があります。


次章では、

・種子法の廃止
・種苗法への移行

によって、

・種は誰のものなのか
・自家採種はどう扱われるのか
・品種と権利の関係がどう変わったのか

といった点を整理していきます。

品種の話が、
制度・ルールの話へとつながっていく節目として、
重要な章になると感じました。

種子法から種苗法へ──制度が変えたもの

品種や育種技術の話を整理したうえで、
次に避けて通れないのが 「制度」の問題です。

セミナーでは、

「どの品種を使えるか」
「種を自分で残せるかどうか」

といった実践的な判断が、
法律によって大きく左右されるようになっている
という点が強調されていました。


かつての種子法とは何だったのか

1952年に制定された「主要農作物種子法(種子法)」は、

・稲
・麦
・大豆

といった、国民の食料の基盤となる作物について、

・各都道府県が責任を持って
・原原種・原種を生産し
・安定的に良質な種子を供給する

という仕組みを支える法律でした。

この制度のもとでは、

・地域に適した品種が守られる
・農家は比較的自由に種を使い続けられる

という前提が成り立っていました。


種子法の廃止と、その後

この種子法は、2018年に廃止されます。

背景には、

・民間の品種開発を促進したい
・国際的な知的財産保護の流れ
・農業分野でも競争力を高めたい

といった政策的な意図があったと説明されました。

その結果、

「公共が守る種」から
「権利として管理される品種」へ

という大きな転換が起こります。


種苗法とは何か

種子法の廃止後、
中心的な役割を担うようになったのが 種苗法です。

種苗法は、

・新品種を育成した人(育成者)に
・一定期間、その品種を独占的に利用できる権利
(育成者権)

を与える制度です。

期間は、

・通常作物で25年
・果樹などの永年作物で30年

と定められています。

この間、

・無断での増殖
・無断での販売
・無断での自家採種

は、原則として認められません。


制度がもたらした変化

この制度によって、

・新品種開発へのインセンティブが高まった
・海外への品種流出を防ぐ仕組みが整った

といったメリットがある一方で、

農家の側から見ると、

・「この品種は種を取っていいのか?」
・「翌年も同じ種を使えるのか?」

という確認が、
これまで以上に重要になりました。

特に自然栽培のように、

・長期的に同じ土地で
・環境に適応させながら栽培する

農法では、
種を自分で残せるかどうか
経営や技術の根幹に関わります。


技術ではなく「ルール」が境界線になる

ここで印象的だったのは、

・F1かどうか
・遺伝子組み換えかどうか

といった技術的な違いだけでなく、

法律上、何が許されているか

が、
実際の選択肢を決めているという点でした。

そしてその結果、

「自家採種できる品種」と
「制度上、できない品種」

という線引きが、
より明確になっていきます。


次章では、ここまでの制度の話を踏まえて、

・どんな品種が自家採種できるのか
・どんな品種はできないのか
・自然栽培では、どこに注意すべきか

を、具体的に整理していきます。

「種を残せるかどうか」という視点は、
自然栽培を実践するうえで、
非常に現実的で重要なポイントだと感じました。

自家採種できる品種/できない品種

ここまで見てきたように、
自然栽培において「どの品種を使うか」を考える際、

その品種が自家採種できるかどうか

は、とても重要な判断軸になります。

自家採種とは、
その年に収穫した作物から種を取り、
翌年以降も同じ品種を育て続けることです。

自然栽培では、

・外部からの資材投入を減らす
・土地や環境に作物を適応させていく
・長期的な視点で栽培を続ける

という特徴があるため、
種を自分で残せるかどうか
コスト面だけでなく、技術面・思想面でも大きな意味を持ちます。


自家採種できない品種

まず、「自家採種が難しい、またはできない品種」から整理します。

① 育成後25年以内の登録品種

種苗法によって、

・育成から25年(果樹は30年)以内の品種
・育成者権が有効な品種

については、
原則として、育成者の許可なしに自家採種することはできません。

たとえば、

・各都道府県が育成した近年のイネ品種
(つや姫、ななつぼし など)

は、多くがこの対象になります。

「昔から作られているように見えるが、実は比較的新しい品種」

というケースも多く、
意識せずに自家採種してしまうと、
制度上の問題が生じる可能性があります。


② F1(一代雑種)品種

F1品種は、

・異なる親系統を掛け合わせて作られる
・品質や収量が揃いやすい

という特徴を持ちますが、

収穫した種を翌年まくと、

・形
・味
・生育
・収量

が大きくばらつき、
親と同じ性質は維持されません。

そのため、
実質的に「自家採種できない品種」と言えます。

多くの市販野菜の種はF1品種であり、
慣行栽培では問題になりにくい一方で、
自然栽培では長期利用が難しいケースもあります。


自家採種できる品種

一方で、
自然栽培と相性が良い「自家採種できる品種」も確かに存在します。

① 育成後25年以上経過した品種

育成者権の保護期間が終了した品種は、

・法的に自家採種が可能
・自由に増やして使い続けることができる

という特徴があります。

緑の革命以前に育成された品種の多くは、
このカテゴリーに含まれます。


② 在来種・固定種

在来種や固定種は、

・特定の地域で長く栽培されてきた
・環境に適応しながら受け継がれてきた

品種です。

これらは、

・自家採種が可能
・世代を重ねることで、土地に馴染んでいく

という点で、
自然栽培の考え方と非常に親和性が高いと紹介されていました。

品質や収量にばらつきはありますが、
その「ばらつき」こそが、
環境への適応力とも言えます。


「できる/できない」はゴールではない

ここで強調されていたのは、

自家採種できるかどうかは
あくまで「条件の一つ」であって、
それだけで品種の良し悪しが決まるわけではない、という点です。

・自家採種できるが、環境に合わない品種
・自家採種できなくても、目的に合う品種

も、現実には存在します。

大切なのは、

「なぜその品種を選ぶのか」
「どんな栽培を目指しているのか」

という視点でした。


こうして整理してみると、
自然栽培における品種選びは、

・法律
・技術
・栽培環境
・経営
・思想

が重なり合う領域だと感じます。

次章では、
これらを踏まえたうえで、

「自然栽培に適した品種とは、どう考えればよいのか」

という問いに、
もう一歩踏み込んでいきます。

自然栽培に適した品種の考え方

ここまでで、

・品種改良の背景
・F1品種と固定種の違い
・自家採種できる品種/できない品種
・制度や法律の影響

を見てきました。

これらを踏まえたうえで、
セミナーで繰り返し示されていたのが、

「自然栽培に適した品種は、特定の品種名で決まるものではない」

という考え方です。

自然栽培に向いているかどうかは、
品種そのものの“優劣”というよりも、

どんな環境で、どんな栽培をするかとの関係性

によって決まる、という整理でした。


① 新しい品種=不向き、ではない

まず誤解しやすい点として、

「新しい品種=自然栽培に向かない」わけではない

という説明がありました。

近年育成された品種であっても、

・その土地の気候に合っている
・肥料を多く入れなくても極端に倒れない
・病気に比較的強い

といった特性を持つものは、
自然栽培でも十分に栽培可能です。

実際、
自然栽培の現場でも、
比較的新しい品種が使われている例はあります。


② 自然栽培の「本当の強み」

一方で、
自然栽培ならではの大きな強みとして挙げられていたのが、

緑の革命以前の古い品種を、無理なく栽培できる

という点です。

慣行栽培では、

・化学肥料による急激な生育
・倒伏
・病害虫の多発

といった理由から、
古い品種がうまく育たないことが多くなりました。

しかし自然栽培では、

・過剰な窒素投入がない
・生育が穏やか
・植物体内の窒素濃度が低めに保たれる

ため、

かつて主流だった品種が、本来の力を発揮しやすい

環境になります。

これは、
自然栽培が単に「資材を使わない農法」ではなく、
作物と環境の関係性を変える農法であることを示しているように感じました。


③ 在来種・固定種との相性

この文脈で、
自然と話題に上がってくるのが、

・在来種
・固定種

です。

これらの品種は、

・もともと化学肥料を前提にしていない
・地域の気候や土壌に適応してきた
・自家採種を繰り返しながら残されてきた

という特徴を持っています。

そのため、

自然栽培という環境に置かれたとき、
違和感なく適応しやすい品種群

だと説明されていました。


④ 「品種を選ぶ」というより「育てていく」

ここで印象的だったのは、

自然栽培における品種選びは、
「完成された答えを選ぶ」行為ではなく、

環境の中で、作物と一緒に育てていくプロセス

だという考え方です。

・最初から完璧な品種を探す
・カタログスペックで優劣を決める

というよりも、

・その土地で育ててみる
・少しずつ適応した個体を残す
・世代を重ねる

という時間軸が、
自然栽培ではとても重要になります。


こうした考え方をさらに具体化した存在が、
「在来種」です。

在来種は、

・地域の環境
・人の営み
・長い時間

の中で育てられてきた、
いわば「環境との対話の結果」とも言える品種です。

次章では、

在来種とは何か
なぜ今、改めて注目されているのか
自然栽培との相性はどこにあるのか

といった点を、
もう少し丁寧に掘り下げていきます。

在来種とは何か、そしてその可能性

自然栽培に適した品種を考える流れの中で、
ひとつの大きなキーワードとして浮かび上がってきたのが
「在来種」です。

在来種とは、

特定の地域で、
長い時間をかけて栽培・選抜され、
その土地の気候や土壌、食文化に適応してきた品種

を指します。

多くの場合、

・明確な育成者がいない
・公的な品種登録がされていない
・農家や地域社会の中で守られてきた

といった特徴を持っています。


在来種は「環境の記憶」を持った品種

在来種の最大の特徴は、
その土地の環境に対する適応の履歴を持っている
という点です。

・雨の多さ
・寒暖差
・土壌の性質
・地域特有の病害虫

こうした条件の中で、

「うまく育ったものが残り、
 育ちにくいものが淘汰される」

というプロセスを、
何世代も繰り返してきました。

そのため在来種は、

人が外から手を加えなくても、
環境との折り合いを自分なりにつける力

を持っている場合が多い、と説明されていました。


自然栽培との相性が良い理由

自然栽培は、

・肥料や農薬で環境を無理に操作しない
・作物自身の適応力を引き出す

という方向性を持つ農法です。

そのため、

すでに環境適応を重ねてきた在来種は、
自然栽培の考え方と非常に相性が良い

と考えられます。

セミナーでは、

・在来種は、少ない投入でも安定しやすい
・土地に合えば、病害虫が出にくいケースもある
・自家採種が可能で、種を自分で守れる

といった点が、
自然栽培の現場で評価されている理由として挙げられていました。


経営面・文化面での可能性

在来種の価値は、
栽培のしやすさだけにとどまりません。

・大量流通品種にはない風味
・地域固有の形や色
・「その土地でしか作れない」という物語性

といった要素は、

差別化が難しい農産物市場の中で、
明確な個性として機能する

可能性を持っています。

また、

・伝統野菜としての文化的価値
・加工品や地酒原料としての活用
・地域ブランドとの親和性

など、
農業を「生産」だけでなく
「文化」として捉える視点とも深く結びついています。


それでも、理想だけでは語れない

一方で、
セミナーでははっきりと、

「在来種は万能ではない」

という点も強調されていました。

在来種には、

・品質のばらつき
・収量の不安定さ
・病気への弱さ
・現代の流通に合わない形状

といった、
無視できない課題も存在します。

自然栽培との相性が良いからといって、
在来種=誰にでもおすすめできる万能解
というわけではありません。


そこで次章では、

在来種が持つ「欠点」や「難しさ」を、
理想論ではなく現実的な視点から整理し、

・どんな点に注意すべきか
・どのように向き合えばよいのか
・自然栽培の中でどう活かすか

を掘り下げていきます。

在来種の欠点と、現実的な向き合い方

在来種には、
自然栽培と相性の良い多くの魅力がある一方で、
現実的に向き合わなければならない欠点も存在します。

セミナーでは、在来種について
決して理想化せず、
冷静に整理する視点が示されていました。


在来種が抱えやすい課題

まず挙げられていたのが、
品質や形状のばらつきです。

在来種は、

・長年、地域内で選抜されてきた
・必ずしも「均一性」を重視してきたわけではない

という背景があるため、

サイズ


生育スピード

などが揃いにくい傾向があります。

これは、

スーパー流通を前提とした現代の農業
=「規格の均一性」を重視する仕組み

とは、どうしても相性が悪くなります。


収量と安定性の問題

次に挙げられたのが、
収量の低さや不安定さです。

一般に、

・近代品種は「収量の最大化」を目的に改良されてきた
・在来種は「環境への適応」を重ねてきた

という違いがあります。

そのため、

・単位面積あたりの収量は少なめ
・年による出来不出来の差が出やすい

といった点は、
経営面ではリスクになり得ます。


病害への耐性と、温暖化という新しい壁

さらに、

・病害耐性が十分に改良されていない品種が多い
・現在進行中の温暖化に、必ずしも適応できていない

という指摘もありました。

在来種は、

「過去の環境には適応してきたが、
 これからの環境に適応できるかは別問題」

という側面を持っています。


それでも在来種を選ぶ意味

こうした欠点があるにもかかわらず、
セミナーでは、

「在来種は、選び方と使い方次第で大きな価値を持つ」

という整理がされていました。

重要なのは、

・すべてを在来種に切り替える必要はない
・いきなり主力作物にする必要もない
・少量から試し、土地との相性を見る

といった、
段階的・実験的な向き合い方です。

自然栽培では、

・環境に合ったものが残り
・合わないものは自然に淘汰される

というプロセスそのものが、
栽培技術の一部になります。

在来種は、その過程を
最もよく体現できる存在とも言えます。


経営と文化を両立させる視点

在来種は、

・大量生産
・大量流通

には向きにくい反面、

・少量生産
・直接販売
・加工品
・物語性のある商品

といった形では、
強い武器になり得ます。

つまり在来種は、

「すべての農家に向く品種」ではなく、
「戦い方を選べる農家に向く品種」

だと整理されていました。


ここまでで、

・どんな品種を選ぶか
・どんな種を使うか

という話をしてきましたが、
最後に避けて通れないのが
「どう表示し、どう伝えるか」という問題です。

自然栽培で育てた作物は、
法律上どのように扱われ、
どんな表示が認められているのか。

次章では、

「自然栽培農産物の表示ルール」

として、
制度と現実のあいだを整理していきます。

自然栽培農産物の表示ルール

自然栽培で作物を育てるうえで、
意外と見落とされがちなのが
**「どう表示できるのか」**という問題です。

セミナーでは、

栽培技術や品種の話と並んで、
**表示ルールという“現実的な制約”**についても触れられていました。


農産物表示の基本的な枠組み

現在、日本の制度上、
農産物の栽培方法に関する表示は、
大きく次の3つに整理されています。

  1. 慣行栽培
     肥料・農薬を使用する一般的な栽培
  2. 特別栽培農産物
     農薬や化学肥料の使用を慣行栽培より減らしたもの
  3. 有機JAS認証農産物
     国の基準を満たし、認証を受けた有機栽培

自然栽培は、
現行制度では独立した区分を持たず、
「特別栽培農産物」の枠内で扱われます。


「無肥料・無農薬」は表示できない

ここで重要なのが、
表示に使える言葉の制限です。

農水省のガイドラインでは、

・「無肥料」「無農薬」という表現
・誤解を招く恐れのある断定的表現

は、原則として認められていません。

その代わりに使えるのが、

  • 農薬:栽培期間中不使用
  • 化学肥料(窒素成分):栽培期間中不使用

という、
事実を淡々と示す表現です。

これは、

「自然かどうか」
「思想としてどうか」

ではなく、
客観的に確認できる行為だけを表示する

という考え方に基づいています。


自然栽培という言葉は使えるのか

一方で、

「自然栽培」
「自然農法」

といった言葉そのものが
全面的に禁止されているわけではありません。

ただし、

・一括表示枠(原材料表示など)とは別の場所
・農法名・説明文として
・誤認を招かない形で

といった条件付きでの使用が前提になります。

つまり、

「自然栽培です」と大きく表示することは難しいが、
 栽培背景として説明することは可能

という、ややグレーで繊細な位置づけです。


なぜここまで厳しいのか

この表示ルールの背景には、

・消費者の誤認防止
・「自然」「安全」といった言葉の乱用防止
・客観性の担保

といった目的があります。

セミナーでは、

「制度としては理解できる一方で、
 自然栽培の価値が伝わりにくい面もある」

という、
現場のもどかしさも共有されていました。


表示は制約だが、同時に“前提条件”

こうした表示ルールは、

・自然栽培の普及を妨げる壁
であると同時に、

・誰もが同じ土俵で説明するための前提条件

でもあります。

だからこそ、

表示できる範囲を正確に理解したうえで、
 どこで価値を伝えるかを考える

ことが、
自然栽培の経営では重要になってきます。


ここまでで、

・どんな品種を選べるのか
・どこまで自家採種できるのか
・どう表示できるのか

という、
制度の枠組みを一通り見てきました。

そして最後に、
この制度の話と深く関わるのが、

近年行われた制度改正です。

次章では、

「制度改正が開いた“古い品種”の可能性」

として、

・産地品種銘柄制度の見直し
・昔の品種が再び名前を持てるようになった意味

について整理していきます。

第13章|制度改正が開いた“古い品種”の可能性

ここまでの章では、

・自然栽培に向いた品種とは何か
・F1品種や自家採種の制約
・在来種という選択肢
・表示や制度という現実的な枠組み

を、一つひとつ整理してきました。

それらをつなぐ「制度面での転換点」として、
セミナーで紹介されたのが、
お米の産地品種銘柄制度の改正(令和3年)です。


産地品種銘柄制度の見直しとは

従来、日本のお米は、

・産地(都道府県)
・品種

の組み合わせが
「産地品種銘柄」として厳密に管理されており、

各県が指定した品種以外は、
たとえ栽培できても
パッケージに品種名を表示できない

という制約がありました。

たとえば、

宮城県でしか銘柄指定されていない
「ささしぐれ」

を他県で栽培した場合、
それまでは品種名を名乗れなかったのです。


改正によって何が変わったのか

制度改正後は、

・産地(県)
・品種

を、
実態に即して表示できるようになりました。

つまり、

「○○県産 ささしぐれ」

のように、
古い品種・マイナーな品種でも、
 正しく名前を出して販売できる

道が開かれたということです。

これは、自然栽培にとって非常に大きな意味を持ちます。


自然栽培 × 古い品種 の相性

セミナー全体を通して見えてきたのは、

・自然栽培は
 緑の革命以降の「肥沃な環境」を前提にした品種だけでなく

・それ以前の、
 肥料に頼らない環境で育ってきた品種とも相性がよい

という点でした。

しかし、これまでは、

「育てられても、名前を出せない」
「市場で評価されにくい」

という理由で、
古い品種は選択肢になりにくかったのが現実です。

制度改正は、
その最後のボトルネックを一つ外したとも言えます。


差別化ではなく、「選べるようになった」という変化

この変化は、

・すべての農家が古い品種を使うべき
・自然栽培こそ正解

という話ではありません。

ただ、

「使いたい人が、きちんと選べる」
「選んだ理由を、名前として示せる」

という状態になったこと自体が、
非常に大きな前進だと感じました。

自然栽培は、

・投入を減らす技術
・生態系を育てる技術

であると同時に、

「品種の選択肢を取り戻す技術」

でもあるのかもしれません。


ここまでの整理

この第8回を通して浮かび上がってきたのは、

・自然栽培に適した品種は一つではない
・近代品種も使えるが、古い品種という選択肢もある
・制度・表示・法律を理解することで、
 その選択肢は現実のものになる

という、
「理論 × 技術 × 制度」が重なった地点でした。


ここまでで、

自然栽培を
「どう育てるか」
「どう支えるか」
「どう伝えるか」

という視点から整理してきました。

次の最終章では、
これらすべてを踏まえたうえで、

👉 もちまる自身が、この回を通して何を感じたのか
👉 自然栽培と品種選びを、どう捉え直したのか

を、
個人的な感想として静かにまとめていきます。

最終章|もちまるの感じたこと(個人的感想として)

今回のセミナーを通して強く感じたのは、
自然栽培における「品種選び」は、技術論というよりも視点の問題なのかもしれない
ということでした。

これまで私の中での品種改良のイメージは、

・より多く取れる
・より均一で扱いやすい
・より市場に合わせやすい

といった、
効率や需要に向かって一直線に進むものでした。

しかし、セミナーを聞く中で見えてきたのは、

「どんな環境で育てるのか」によって、
「適した品種の方向性そのものが変わる」

という、当たり前だけれど見落としがちな視点でした。


緑の革命以降に改良されてきた品種は、
化学肥料が潤沢に使える環境では非常に優れた能力を発揮します。

一方で、
肥料に頼らない自然栽培の環境では、

・古い品種
・在来種
・地域に根ざしてきた作物

が、
むしろ無理なく力を発揮できる可能性がある

この対比は、
「どちらが優れているか」という話ではなく、

「前提となる環境が違う」

というだけのことなのだと、
今回の内容を通して腑に落ちました。


また、制度や法律の話を聞いて感じたのは、
自然栽培が広がりにくかった理由の一部は、

・技術の問題
・理解の問題

だけでなく、

「名前を名乗れなかった」
「正しく伝えられなかった」

という構造的な部分にもあったのではないか、という点です。

制度改正によって、

・古い品種を育てられる
・その品種名を表示できる

ようになったことは、
自然栽培にとっての追い風というより、

ようやくスタートラインが揃い始めた

という感覚に近いのかもしれません。


個人的には、
自然栽培の魅力は「理想論」よりも、

・慣行栽培では選べなかった品種を選べること
・地域の歴史や文化とつながる作物を育てられること
・小さな規模でも、独自の価値をつくれること

といった、
現実的で、地に足のついた可能性にあるように感じています。

特に、
在来種や古い品種が持つ

・味の個性
・ばらつき
・均一ではない魅力

は、
大量生産とは違う文脈だからこそ評価されるものだと思います。


今回の回を通して、
自然栽培は単に

「肥料や農薬を使わない農法」

ではなく、

「育てる環境に合わせて、
 品種・制度・売り方まで含めて考え直す農業」

なのかもしれない、
そんなふうに感じました。

次回以降はいよいよ、

「では、実際にどうやって無肥料・無農薬で育てていくのか」

という、
このセミナーの核心ともいえる技術的な話に入っていきます。

ここまで積み上げてきた
環境・微生物・品種・制度という土台の上で、
どんな実践が語られていくのか。

自分自身の理解が、
これからどう深まっていくのかを楽しみにしながら、
この回を締めたいと思います。

▶ 次回につづく

第9回
「無肥料なのに、なぜ差がつく?自然栽培土壌の『窒素循環』を学んだ日」

第8回では、

どの「種・品種」を選ぶかで、農業の前提が大きく変わること
「緑の革命」が品種改良の方向性をどう変えたのか
F1品種・在来種・固定種の違いと、それぞれの意味
種子法から種苗法への制度変更がもたらした影響
自然栽培における在来種・古い品種の可能性

など、
「作物そのものの選び方」という視点から、
自然栽培のもう一つの土台を整理しました。

次回はいよいよ、

同じ「無肥料」でも、なぜ収量に大きな差が生まれるのか?
高収量の自然栽培土壌では、何が起きているのか?
窒素はどこから来て、どう循環しているのか?
「回る畑」と「回らない畑」を分ける決定的な条件とは何か?

といった、
自然栽培の“技術の核心”に踏み込んでいきます。

「肥料を入れない」のではなく、
「土が自ら栄養を生み出す循環をどう設計するのか」

自然栽培が“感覚論”ではなく、
理屈として成立している理由を、
窒素循環という切り口から解き明かす回です。

第9回のレポートを読む
https://sanseitohow.com/natural-farming-nitrogen-cycle/

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