この記事の要約
本記事では、
「無肥料・無農薬栽培」と一括りにされがちな農法の世界を、
さまざまな実践例や考え方をもとに整理しながら、
自然栽培がどの位置にあり、何を目指しているのかを学びました。
自然栽培・自然農法・炭素循環農法・菌ちゃん農法・協生農法・環境再生型農業など、
それぞれの農法は、
「土を耕すかどうか」「外部から資材を入れるかどうか」という
2つの軸で見ることで、
意外なほどわかりやすい“地図”として整理できます。
さらに、
- なぜ人は畑を「耕してきた」のか
- 雑草とどう向き合うのか
- カバークロップという技術的工夫
- 不耕起有機栽培の先行事例
- 自然栽培が目指す“進化の階段”
といったテーマを通して、
農業とは単なる作物生産ではなく、
土と生態系をどう扱い、どう未来につなぐかという営みであることが、
より立体的に見えてきます。
最終章では、
「農業とは“作物”と同時に“土”も消費しているのではないか」
という視点から、
自然栽培・自然農法という選択が、
長い時間軸での持続可能性とどう結びつくのかについて、
個人的な考えをまとめています。
このレポートは、
「自然栽培って結局何なの?」と感じている人にとって、
世界観を整理し、全体像を掴むための“地図”になる一編です。
このレポートは、
自然栽培セミナー全15回を「もちまる視点」で追いかける連載企画の第5回です。
▼ この連載をまとめて読む
→ もちまる自然栽培セミナー・全話まとめガイドはこちら
https://sanseitohow.com/natural-farming-series-2/
はじめに
本記事は、自然栽培セミナー第5回の内容を、
もちまる視点で「無肥料・無農薬栽培の歴史と多様性」に焦点を当ててまとめたレポートです。
今回のテーマは、
「自然栽培」「自然農法」「自然農」など、似ているけれど少しずつ違う農法たち。
- どんな考え方の違いがあるのか
- 「耕すか」「外から資材を入れるか」という軸でどう整理できるのか
- なぜ自然栽培が、いきなり真似してもうまくいきにくいのか
といった点を、歴史と理論の流れの中で学んだ回でした。
ここでも、特定の農法を絶対視するのではなく、
「どういう立ち位置の農法なのか」を俯瞰して整理することが中心になっています。
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第4回「農業と温暖化の知られざる関係。化学肥料を学んだ日」
https://sanseitohow.com/agriculture-climate-fertilizer/
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第6回「JAS有機はなぜ広がらないのか。日本の気候と“投入型農業”を学んだ日」
https://sanseitohow.com/jas-organic-japan-limits/
無肥料・無農薬栽培をめぐる、さまざまな名前
「無肥料・無農薬」と一言で言っても、
その中には考え方も実践方法もまったく異なる、いくつもの農法が存在します。
セミナーでは、代表的なものとして、次のような農法が紹介されました。
自然栽培
無肥料・無農薬を基本としつつ、畑は耕起し、
ビニールマルチなどの資材も活用しながら作物を育てる農法です。
土壌微生物の働きを引き出し、
「外部から何かを足すのではなく、もともとの土の力を活かす」
という発想を大切にしつつ、
実際の 農業経営として成り立つことも重視している点が特徴 とされていました。
自然農法
耕さず、雑草を抜かず、
農薬や化学肥料を使わないという、
非常に徹底した自然志向の農法です。
草と共生するため、畑は一面が植物で覆われ、
見た目には「野原のような風景」になることもあります。
自然への寄り添い方は非常に深い一方で、
技術的なハードルが高く、経営としては継続が難しい面もある
という現実も、同時に語られていました。
自然農
「耕さない」「肥料・農薬を使わない」「草や虫を敵にしない」
という考え方を大切にする農法です。
理念としては自然農法とよく似ていますが、
実践の方法は人によって幅があり、
こちらも経営的には難易度が高い農法として紹介されていました。
協生農法
生物多様性や生態系の働きを意識的に設計し、
自然の機能そのものを活用して食糧生産と経済活動の両立を目指す
というアプローチです。
単なる“無農薬”にとどまらず、
生態系全体を一つのシステムとして捉える考え方が特徴とされていました。
炭素循環農法
「微生物を飼う農業」と表現されることもある農法です。
木片や落ち葉など、炭素量の多い有機資材を浅く土にすき込み、
土壌微生物の多様性を高めることで、
無施肥でも作物を育てられる環境を整える
という考え方がベースになっています。
菌ちゃん農法
炭素循環農法を、日本の気候・土壌条件に合わせて発展させた形として紹介されました。
高畦を作り、
下層には木片などの炭素資材、
上層には落ち葉や藁を重ね、
ビニールで覆って微生物の働きを最大化します。
家庭菜園でも取り組みやすく、再現性が高い
という点から、実践者が多い農法ともされています。
環境再生型農業(リジェネラティブ農業)
不耕起栽培や被覆植物の利用、
土を常に植物で覆うこと、
多年生植物による“生きた根”の保持、
さらには家畜の導入などを組み合わせ、
草原や牧草地のような生態系を模倣しながら、
土地そのものを回復・再生していこうとする農業手法です。
単なる栽培技術ではなく、
「農業で環境を再生する」という発想をもつ農法として説明されていました。
こうして整理してみると、
「無肥料・無農薬」という共通のイメージの裏側には、
- 耕すのか、耕さないのか
- 外部から何かを入れるのか、入れないのか
- 生態系をどこまで“設計”するのか
といった、実践上の大きな違いがあることが見えてきます。
そこでセミナーでは、
この多様な農法たちを理解するために、
「耕すか」「外から資材を入れるか」
という、2つのシンプルな軸で整理する視点が提示されました。
次の章では、この整理図を使いながら、
それぞれの農法がどの位置にあるのかを見ていきます。
「耕すか」「外から入れるか」で見えてくる地図
セミナーでは、
多様な無肥料・無農薬栽培を整理するための
とてもシンプルで分かりやすい二つの軸が提示されました。
それが、
- 耕起するかどうか
─ 土を耕すのか、耕さないのか - 外部から資材を投入するかどうか
─ 肥料や農薬などを入れるのか、入れないのか
という視点です。
この2軸で農法を分類していくと、
それぞれの立ち位置が、まるで地図のように俯瞰できる形で見えてきます。
耕さない × 無投入
- 自然農法
- 自然農
- 協生農法
このグループは、
「耕さず、外から何も入れず、自然の力に最大限委ねる農法」として整理され、
セミナーではまとめて「自然農法系」と紹介されていました。
耕す × 無投入
- 自然栽培
- 炭素循環農法
- 菌ちゃん農法
こちらは、
土は耕すが、肥料や農薬といった外部資材は入れないという農法です。
耕起によって作物の育成環境を整えつつ、
微生物の働きや土の循環を活かして地力を引き出そうとするグループで、
セミナーでは「自然栽培系」として整理されていました。
耕さない × 投入する
- 環境再生型農業(リジェネラティブ農業)
不耕起で土壌を攪乱せずに保ちながら、
必要に応じて肥料などは投入する、
“不耕起だが無投入ではない”という立ち位置にあります。
耕す × 投入する
- JAS有機栽培
- 慣行栽培
このグループは、
- 土を耕す
- 外部から資材を投入する
という、近代農業の基本スタイルにあたります。
JAS有機は「投入する資材が天然由来に限定される」
慣行栽培は「化学肥料・合成農薬の使用を前提とする」
という違いはありますが、
大枠では同じ座標に位置する農法と整理されます。
こうして地図として俯瞰してみると、
- 自然農法・自然農・協生農法は
→ 耕さず、投入もしない“徹底した自然寄り”の農法 - 自然栽培・炭素循環農法・菌ちゃん農法は
→ 耕起は行いつつ、外部投入を減らし、土壌の力を引き出す農法 - JAS有機・慣行栽培は
→ 耕起と外部投入を前提に成り立つ農法
という、それぞれの立ち位置が明確に見えてきます。
この整理を知ることで、
「自然栽培とは、どこを目指した農法なのか?」
「無肥料・無農薬の中で、どんな特徴を持っているのか?」
といった疑問が、
かなり立体的に理解できるようになると感じました。
では次に、
それぞれの農法は、
実際の現場で どんな“管理の仕方”をしているのか?
という点を見ていきます。
次章では、
管理方法の違いを軸にして、
農法ごとの具体的な特徴をさらに掘り下げていくパートへ進みます。
管理方法の違いで見える、農法ごとの特徴
ここまで見てきた分類を、
もう一歩具体的に、
「実際の畑で、どんな管理をしているのか?」
という視点から整理してみます。
セミナーでは、主に次のような違いが紹介されました。
慣行栽培
- 耕起(畑を耕す)
- 除草(機械・手作業)
- 化学肥料
- 合成農薬
現在、日本で最も一般的な農法です。
収量の安定性や作業の効率化を重視し、
外部資材を積極的に活用しながら作物を育てます。
JAS有機栽培
- 耕起
- 除草
- 有機肥料(堆肥など)
- 天然物由来の農薬
慣行栽培と同様に耕起と資材投入は行いますが、
使用できる資材の種類を厳しく制限し、
“自然に近い形で安定生産を目指す農法”といえます。
不耕起栽培(一部地域・一部農場で実践)
- 耕さない
- 肥料・農薬は使用、または一部削減
土壌の攪乱を最小限に抑え、
表土流出の防止や土壌生物の保全を狙う農法です。
日本ではまだ実践例は多くありませんが、
海外では大規模農業との相性のよさから発展してきた技術でもあります。
自然栽培
- 耕起あり
- 無肥料・無農薬
- 雑草対策にビニールマルチなどを活用
土は耕しますが、肥料や農薬を使わず、
微生物の働きと土の循環を最大限に活かそうとする農法です。
雑草管理を「人の技術」でコントロールするため、
自然農法よりも作業の再現性が高く、
経営として成立させやすい側面を持つと説明されていました。
自然農法
- 耕起なし
- 無肥料・無農薬
- 雑草も極力抜かず、共存を目指す
人為的な管理を極限まで減らし、
植物同士・生物同士のバランスに委ねる農法です。
畑の景色は草に覆われていることも多く、
理想に近い姿である一方、
- 雑草管理
- 収量の安定
- 経営としての継続性
といった面で、非常に高度な技術と経験が求められるとも語られていました。
こうして並べてみると、
「無肥料・無農薬」と一括りにされがちですが、
- 土を耕すか、耕さないか
- 雑草をどう管理するのか
- 外部資材とどこまで距離を取るのか
によって、
畑の見た目も
求められる技術も
経営としての難易度も
まったく違ってくることが分かります。
特に印象的だったのは、
「耕起の有無」が、
農法全体の難易度と再現性を大きく左右している
という点でした。
ここで自然に湧いてくるのが、次の疑問です。
そもそも、
なぜ私たちは畑を「耕す」必要があるのか?
この問いに答えていくことで、
自然農法がなぜ難易度の高い農法なのか、
そして自然栽培が“現実的な選択肢”として位置づけられる理由が見えてきます。
次章では、
”なぜ私たちは畑を「耕す」のか”
というテーマで、
作物と雑草の競争、植物の遷移、
そして人が耕起を行ってきた意味について
もう一段深く掘り下げていきます。
なぜ私たちは畑を「耕す」のか
では、そもそも——
なぜ農業では、土を耕す作業が必要とされてきたのでしょうか。
セミナーでは、その背景として
「植物遷移(しょくぶつせんい)」という自然の原理が紹介されました。
植物の世界では、
放っておけば、土地は次のような順序で変化していきます。
- 1年草(短期間で枯れる草)
- 多年草(数年以上生き続ける草)
- 低木・樹木
つまり、自然のままの土地は、
ゆっくりと草原から森へ向かっていくのが本来の姿です。
この流れの中で重要なのが、競争の強さの違いです。
- 多年生植物は、1年生の作物よりも根が強く、競争に勝ちやすい
- 樹木は、多年草よりもさらに優位に立つ
そのため、人が何もしなければ、畑に作物を植えても、
やがて雑草に覆われ、草原となり、最終的には森へと変わっていく
——これが自然の摂理です。
1年生作物を安定して育てるためには、
この“自然の流れ”に対して、あえて介入する必要があります。
そのために、農業では長く次のような管理が行われてきました。
- 土を耕して、植物の定着を一度リセットする
- 雑草を刈る・抜く
- 状況によっては、除草剤で地表植生を抑える
耕起とは、単なる作業ではなく、
「植物遷移を人為的に止めるための手段」
だったのです。
不耕起栽培や自然農法が
「理想的だけれど難しい」と言われる理由も、ここにあります。
それは思想の問題ではなく、
草原や森へ向かおうとする自然の力と、
どう折り合いをつけて作物を育てるか
という、極めて高度な技術的課題を抱えているからです。
一方で、自然栽培は——
同じ無肥料・無農薬であっても、
「耕起を行いながら、外部投入を減らしていく」
という立ち位置を取っています。
植物遷移を
- 完全に自然に任せるのではなく
- 必要な部分だけ人がコントロールする
この姿勢によって、
- 雑草の管理難易度が下がり
- 作業の再現性が高まり
- 経営として成り立たせやすくなる
という整理が示されていました。
私自身も、
無肥料・無農薬でありながら、
現実的に続けられる農業の“ちょうど中間点”
という自然栽培の立ち位置に、
あらためて納得感を覚えました。
ここで、次の問いが生まれます。
耕起を前提としない農法では、
いったいどのように雑草を抑えているのか?
その答えとして紹介されたのが、
「草で草を抑える」という発想
——カバークロップ(被覆作物)という技術です。
次章では、
“草で草を抑えるという発想──カバークロップという道具”
として、
- 被覆作物とは何か
- なぜ雑草を“敵”にしなくて済むのか
- 不耕起農法を支える実践技術
について、具体的な事例とともに掘り下げていきます。
草で草を抑えるという発想──カバークロップという道具
耕起だけが、
植生管理の手段ではありません。
セミナーでは、もう一つのアプローチとして、
「草で草を抑える」
という発想が紹介されました。
そこで登場するのが
被覆作物(カバークロップ) です。
カバークロップに用いられる植物には、次のような条件が求められます。
- 1年生であること(種を実らせると枯れる)
- 種子が大きく、発芽後の生育が非常に早いこと
- 地表をすばやく・密に覆えること
代表例としては、
- 麦類
- マメ科植物
などが用いられます。
これらを畑に播き、
- 畦間には被覆作物を育てて“草のカーペット”を敷く
- 株間には刈草やリビングマルチで覆い、物理的に雑草を遮断する
という形で、
地表を「完全に裸にしない畑」
をつくっていきます。
光を遮られた地面では、
雑草の発芽や成長が大きく制限されるため、
除草剤に頼らずに、
雑草の勢いをコントロールすることが可能になります。
この方法の本質は、
単に雑草を抑えることではありません。
むしろ、
「自然の競争関係そのものを、
作物にとって有利な形に“設計し直す”」
という点にあります。
雑草を直接排除するのではなく、
- 先に土を覆って主導権を握る植物を置き
- 生態系の競争バランスを味方につける
——そんな発想です。
アメリカでは、
表土の流出が深刻化したことを背景に、
- 不耕起栽培
- カバークロップ
- 輪作
を組み合わせた体系が発展してきました。
耕さず、裸地をつくらず、
生きた植物で土を守り続けることで、
- 土壌有機物の蓄積
- 生物多様性の回復
- 雑草・害虫の抑制
といった好循環を育てていく農業が模索されてきたのです。
草を「敵」とせず、
草の力を「道具」として使う。
この転換が、
不耕起農法や自然農法の技術基盤を支えています。
そして、それらの探究が集約していった先に見えてきたのが、
「収量」と「環境再生」を両立しようとする
一つの到達点
次章で扱う
”不耕起有機栽培という一つの到達点”
です。
ここでは、
- カバークロップを前提にした体系化された農法
- 実際の収量データ
- 慣行栽培と比べた際の“現実的な可能性”
について、さらに具体的に掘り下げられていきます。
不耕起有機栽培という一つの到達点
セミナーでは、
アメリカのロデール研究所が長年取り組んできた
有機・不耕起栽培(オーガニック・ノー・ティル)
の実践事例も紹介されました。
この栽培体系は、
「草で草を抑える」というカバークロップの考え方を
極限まで突き詰めたものです。
具体的には──
- トラクターの前部に装着した ローラークリンパー で、
カバークロップ(主にヘアリーベッチなどマメ科植物)を押し倒す - 地表を覆ったその直後、
枯れ草マットの上から直接トウモロコシの種を播く - 倒されたカバークロップはそのまま
- 雑草の発芽を物理的に抑制し
- 土壌の水分蒸発を防ぎ
- 分解されながら炭素と窒素を供給する有機マルチとして機能する
という連続した工程で畑が管理されます。
この体系の特徴は、きわめて明快です。
- 不耕起
→ 土壌の攪乱を最小限に抑え、有機物の急激な分解を防ぐ - 被覆作物(カバークロップ)
→ 地表を常に覆い、雑草を抑えながら、炭素と養分を供給する - 輪作
→ 畑全体の作物多様性を高め、病虫害の偏りや蔓延を防ぐ
つまり、
生態系の働きを最大限に利用しながら、
人為的な“投入”をほぼ使わずに畑を回していく
という、極めて完成度の高い農法です。
そして注目すべき点は、
こうした 不耕起有機栽培が、慣行栽培と同等、
場合によってはそれ以上の収量を記録している
というデータが実際に存在することでした。
もちろん、
- 気候条件
- 土壌の性質
- 作物の種類
- 技術熟度
によって結果は左右され、
どこでも簡単に再現できるとは限りません。
それでも、
「無肥料・不耕起でも、
適切な設計と管理によって、
実用的な収量が十分に目指せる」
という事実は、
これまで
“理想論”として語られがちだった自然農法・自然栽培を
「現実的な農業技術の選択肢」へと引き上げる
決定的な説得力
を持っていると感じました。
この事例を通して浮かび上がってくるのは、
人が自然と「戦わずに」、
自然の力を“設計”によって味方につける農業は、
技術として成立し得る
という可能性です。
そして、ここでふと問いが生まれます。
- ここまで高度に体系化された
不耕起有機栽培 - 一方で、日本で実践が進んできた
自然栽培
両者は、似ているようで、どこが違うのか。
そして、
自然栽培は、どこを最終的なゴールとして
この道を歩んでいるのか?
その答えを見つめるのが、次の章、
”自然栽培はどこを目指しているのか”
です。
ここでは、
- 自然栽培が「自然農法」でも「慣行栽培」でもない理由
- あえて“耕す”という選択を続ける意味
- 日本の環境における現実的な立ち位置
について、セミナーで語られた核心部分を掘り下げていきます。
自然栽培はどこを目指しているのか
まず示されたのが、日本と海外で異なる移行ルートです。
- 日本での流れ
- 慣行栽培 → 自然栽培(無肥料・無農薬&耕起) → 自然農法(不耕起)
- アメリカでの流れ
- 慣行栽培 → 環境再生型農業(不耕起・被覆作物) → 自然農法的アプローチ(窒素固定作物・輪作など)
スタート地点は同じ「慣行栽培」ですが、
- 日本は 「投入を減らし、微生物の力を引き出す方向」
- アメリカは 「耕さず、被覆作物と多様性で土を守る方向」
という違った入口から、
最終的には「生態系を育てて畑を成り立たせる農業」
に近づこうとしている点が共通している、
という説明がとても印象的でした。
農法ごとの“土との関係”
あらためて整理すると、
それぞれの農法は、**「作物を何に支えて育てているか」**という視点で見えてきます。
- 慣行栽培
→ 化学肥料と農薬をベースに、収量を維持 - 有機栽培(JAS有機)
→ 堆肥を主体に、外部から養分を補給 - 自然栽培
→ 微生物と土壌が持つ
「地力そのもの」をベースにする
この整理は非常にわかりやすく、
自然栽培は、有機栽培の“さらに先”を目指す進化系
という言葉に、個人的にも深く納得しました。
その先にある“自然農法”の世界
さらに一歩踏み込むと、
自然農法や不耕起栽培は、
土を耕して整えるのではなく、
生態系の循環そのものを育て、
土を“攪乱しない”段階
に位置づけられます。
まさに、
「農業技術の最終段階」
とも言える領域です。
だからこそ、自然栽培が“入口”になる
とはいえ、
- 雑草管理
- 植生遷移の制御
- 技術習得の難しさ
などを考えると、
最初から不耕起や自然農法を目指すのは、
現実的にかなりハードルが高い
という側面も否定できません。
そこで示されたのが、
- 第一段階:自然栽培
→ 耕起を行いながら、
無肥料・無農薬で土壌微生物を育てていく - 第二段階:不耕起・自然農法へ移行
→ 生態系の循環が立ち上がった段階で、
攪乱を減らしていく
という「階段をのぼるような移行イメージ」でした。
この考え方が、私にはとても現実的に感じられました。
自然栽培は、
- いきなり理想を目指すものではなく
- 慣行栽培から無理なく一歩を踏み出すための
実践的な“入口”
として位置づけられているのだと理解できたからです。
ここまで学んで感じたのは、
自然栽培というのは、
完成されたゴールではなく、
“自然へ戻っていく道の途中にある形”なのかもしれない
ということでした。
そして、ここで話はいよいよ、
知識の整理から、
自分自身の感じ方へ
と移っていきます。
次の最終章では、
この5回のセミナーを通して、
私自身が何を感じ、
どんな問いを持つようになったのかを、
ひとりの参加者として、率直にまとめていきます。
もちまるの感じたこと(個人的感想として)
ここからは、あくまで もちまる個人の感想 です。
今回のセミナーを通して、
ふと頭に浮かんだのは、こんなイメージでした。
「農業は、作物だけでなく、“土そのもの”も少しずつ消費しているのではないか」
という問いです。
慣行栽培では、
同じ場所で同じ作物を作り続けると連作障害が起こることがあります。
これは、
- 特定の養分が偏って消費されること
- 土の中の微生物や生態系のバランスが変化すること
などが、少しずつ積み重なった結果とも考えられます。
そもそも、
その土地の土は、
人が畑として使うよりはるか前から、
無数の生き物たちの営みが、
何十年、何百年、あるいはそれ以上の時間をかけて
積み重なった「結果」
によって形成されてきたものです。
それを、人間の都合で短期間集中的に使い続ければ、
- 自然が土をつくる速度
- 人が土の力を使う速度
がかみ合わなくなっていくのは、
ある意味、とても自然なことなのかもしれません。
化学肥料は「時間のギャップ」を埋める技術
化学肥料は、
そのズレを埋めるために生まれた技術、とも言えます。
- 自然が何百年もかけて蓄えてきた養分
- 化石燃料として地中に眠っていたエネルギー
それらを一気に「現在」に引き出し、
土の回復を待つ時間を飛び越えて、
収量を支える
という仕組みです。
この方法は、
人類を飢餓から救い、食料供給を支えてきた大きな功績でもあります。
ですが同時に、
もし本格的に
化石燃料が制約を受ける時代
が訪れれば、その影響は
エネルギーの問題だけではなく、
「土をどうやって再生するのか」
という問いとして、
農業にも直接返ってくるのではないか。
そんな感覚を、私は抱くようになりました。
自然栽培・自然農法が示す、もうひとつの道
一方で、
自然栽培や自然農法は、
自然の循環そのものを育てながら、
土の再生と作物生産のバランスを取ろうとする試み
だと感じます。
- 肥料や農薬を外から大量に入れるのではなく
- 微生物や植物、虫たちが支える循環を育て
- 時間をかけて「土の力そのもの」を取り戻す
という方向性です。
もちろん、
- 時間もかかる
- 手間もかかる
- 誰でもすぐに実践できる簡単な方法ではない
という現実はあります。
それでも私は、
- 土を消費する速度
- 土が再生される速度
- 外部資源に依存する量
- 内側で循環できる力
この 二つのバランスを、長い時間軸で見直していくヒント として、
自然栽培・自然農法には
とても確かな意味があると感じました。
最後に
今回のセミナーを通して、
私の中で自然栽培のイメージは、大きく変わりました。
自然栽培は、
単に「資材を減らした農法」ではなく、
「土と時間との付き合い方」を問い直す農法
なのかもしれない。
そんなふうに、
自分の認識が静かに塗り替えられていくのを感じています。
このシリーズはここで一区切りですが、
学びも、問いも、まだまだ続いていきます。
これからも、もちまる視点で見える世界を
少しずつ言葉にしていけたらと思います。
▶ 次回につづく
第6回
「JAS有機はなぜ広がらないのか。日本の気候と“投入型農業”を学んだ日」第5回では、
無肥料・無農薬と一言で言っても多様な農法が存在すること
「耕起」×「投入」という2軸で整理することで見えてくる農法の地図
自然栽培・自然農法・有機栽培の位置関係
そして、自然栽培が “どこを目指す農法なのか” という全体像など、
自然栽培の世界を理解するための基礎となる構造を学びました。次回は、いよいよ
日本ではなぜ有機農業が増えないのか?
JAS有機栽培はどんな仕組みで、どんな課題を抱えているのか?
日本の気候は農業にどんな影響を与えているのか?といった問いに焦点をあてます。
「投入型農業」の限界と、
そこから浮かび上がる“自然栽培という別の選択肢”を深く理解する回になります。
▶ 第6回のレポートを読む
https://sanseitohow.com/jas-organic-japan-limits/


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